二蝉時雨に打たれながら歩くこと約十分、ようやく美鈴は『観文寺』の赤い鳥居をくぐった。「いらっしゃいませ。手嶋美鈴さんですね」突然声を掛けられて美鈴は驚いた。声の主は鳥居のそばにある古井戸の前に立っていた。年の頃は四十半ばくらいだろうか、黒い袈裟を頭からかぶった尼僧で、ニッコリとした優しい目で美鈴を見つめている。片手には、何やら赤い花の入った手桶をぶら下げていた。そんな尼僧の雰囲気に、美鈴は引き込ま...