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あなたの燃える手で

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御令嬢妄想奇譚

【8】
優しく重なった佐智枝さんの唇、その感覚がフワッと消えました。
「絢音お嬢様」
その言葉に、あたしは目を開きました。
「お体をもっとご自愛ください……」
「えっ……」
「ファーストキスはあたしとでしたが、ここから先はいつか現れる人と……」
「佐智枝さん……」
あたしは肩すかしを食ったような気分でした。でもコレで良かったのかもしれ
ません。だってあたし自身、内心ホッとしていたのですから。


それから1週間ほど経ったある日。
あたしが日課にしている散歩に出掛けようと、佐智枝さんの部屋の前を通りか
かったときのコトです。
部屋の中から、佐智枝さんと梓先生の話し声が聞こえてきたのです。
「それであの子とキスしたってワケ。あたしというものがありながら」
「そんな……、だって、あれは」
「だって何よ、その気がないのにキスなんてするワケないじゃないの」
「……」
どうやら佐智枝さんは、この間のキスのコトで梓先生から問い詰められている
ようです。
それにしても、梓先生はどうしてそんなに怒るのでしょう? 
別にあたしとキスをしただけ、ただそれだけのコトなのに……。
あの2人がそういう関係にあることは知っています。でも男を作ったワケでも
ないし、事実キス以上のことも無かったワケだし、あたしには梓先生の怒る理
由がわかりません。
その時、梓先生の行った言葉で、あたしは全てを理解したのです。

「あの子はねぇ、あたしが教えてきたのよ。このあたしが」
「それはそうだけど……」
「だったらあたしでしょう。あの子のファーストキスをもらうのは」

そうです、そうだったのです。梓先生はあたしのファーストキスを奪った佐智
枝さんにヤキモチ、いえ、嫉妬していたのです。

「あたしは教師、あなたは母親代わりじゃない。母親が娘のファーストキスを
奪うなんて、あなた自身どう思うの!」
「でもあたしは本当の母親じゃないし、絢音お嬢様だってそうは思って……」
「あなたわかってないわね、自分の体のコトが……。あなたはねぇ、あたし無
しじゃ生きていけない体なのよ」
「……」
「そうでしょう、その体はあたしがいないと、おかしくなっちゃうのよねぇ」
「はい……、そうです……」
「そのあなたが、あの子のファーストキスを奪うなんて、許されないわ」
「……」
「せめて一言、あたしにお伺いを立てるべきだったわね。まぁ許すワケなんか
無いけど……」

あたしはそこまで聞くと、長居は無用と部屋のドアをノックしました。
その瞬間、室内の話し声がピタッと止まります。
あたしはドア越しに散歩に出掛ける旨を伝えると、階段を下りていきました。

玄関を開けたあたしの髪を、暖かな春風がフワリと持ち上げました。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土