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あなたの燃える手で

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こちら夢の森探偵社


エリは誰もいない夢の森商店街を、幹線道路近くまで走った。
横には明かりの消えたカフェ・アマデウスがある。しかし目の前の横断歩道は赤信号だった。
奈美が言ったように、さすがに駅前は明るい。時折走り去る車のライトが、
束の間の安息を心に与えてくれる。
終電前のこの時間、駅から出てくる人も少なからずいた。そんな状況にゆとり
ができ、エリは後ろを振り返った。
「もういない? あきらめたかしら……」
エリはため息をつくと、信号の変わった幹線道路を駅へと歩いて渡った。
そんなエリの目の前を、終バスがターミナルへと入っていった。


幹線道路沿いを左へ5分程歩くと、ホテルクイーンホリデーがある。
エマとリンダはその正面を横切った。
「へぇ~、これがクイーンホリデーかぁ~。まだ新しいのかなぁ?」
夜空にゴシック調の建物が、そこだけ白くポッカリと浮かび上がっている。
見上げるリンダの赤い髪が、ハラリと額を横に流れた。
エマはエントランスの奥のロビーに目をやった。
「ふっ、女王の休日とは仰々しい名前だな。ローマの休日なら観たが」
「それ、映画ですから……」
「まさかリンダ、あれを観ていないのか?」
エマは両手を胸で合わせると、この世の終わりのように天を仰いだ。
「観てます、ちゃんと観ました。ヘップバーンのでしょう」
「そうか、良かった。もし観ていなければリンダ、君の人生は潤いを失った肌のようなモノだぞ」
「よく判りませんから、それ。……そう言えば、ここの18階に洒落たバーがあるらしいですよ」
「おお、『Bar MELLOW BLUE』。1度は訪れたいと思っている店だ」
「別に近所なんですから、いつでも行けると思いますケド」

ホテルを通り過ぎ10分程歩くと、一方通行の路地があった。
「ここだ、この路地を入ったところに、我らが居城が……」
「ここですか? 結構歩きましたね。やっぱり終バス乗れば良かったのに」
そこにはヨーロッパ調の外観のマンションがあった。エントランスには大きな観葉植物が植えられ、2人はそれを見ながらマンションの入口に入った。
中に入るとエレベーターがあり、通路はそのまま反対側へと抜けている。
「エマさん、あっちはなんですか?」
リンダは通路の奥を見ながら言った。
「あっちは駐車場だ、我々の城はここの910号室。そう、まさに天空の城だ」
エマはエレベーターのボタンを押した。運悪くそれは10階に止まっていた。
「天空までエレベーターって、天空、低っ!」
リンダは後ろの壁の住居案内を見た。
「910号室、910、910……っと。あっ、あった」
そこには『夢の森探偵社』と書かれた紙が貼られている。
真上に当たる1010号室には、『エステ・クレオパトラ』と書かれていた。
「へぇ~、上はエステなんですね」
「ふっ、まだ二十歳そこそこの君には、エステは必要あるまい」
「そんな、若いからこそです。そりゃあ今年三十路になるエマさんは……」
「まだだ、まだ三十路には2年ある、2年。この差は大きいぞ、リンダ」
「まぁ、あたしも18の時そう思いましたから。気持ちは判ります」

エレベーターが1階に降り扉が開いた。
エマが最初に乗り込み、フラメンコのようなターンを決めると扉に向いた。
「こんな所で踊らないでください。どこでもスグに歌劇団になるんですから」
エマは既に、ボタンの横にある小さな鏡で髪の乱れをチェックしている。
「大丈夫ですよ、エマさんの髪カッチカッチなんですから、少々のコトでは」
「身だしなみは大切だぞ。いついかなる時もな」
「えぇ~っと、9階でしたよね」
リンダがボタンを押すと、扉が音もなく閉まった。
エレベーターが10階に着くまで、2人の間に暫し沈黙の時が流れた。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土