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あなたの燃える手で

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こちら夢の森探偵社


「あぁ、やっぱり誰かいる。本当にストーカー? なんで? 一体誰が?」
帰りが遅くなると、エリの回りにストーカーの影がチラつく。
言葉にならない言葉を胸に納め、エリは商店街の途中から脇道に入ると、平行
する裏道に出た。
いつもは煌々と明かりを点す夢の森シネマ。
その小さな映画館も、今はまるでエリを拒絶するように扉を閉ざしている。

映画館の前で立ち止まると、エリは赤いトートバッグを覗き込んだ。
持ち手にブラ下がる小さな白クマのぬいぐるみが、ユラユラと大きく揺れる。
バッグの中から携帯を取り出すと、右手に握りしめた。
「こんな時間だけど、奈美先生出てくれるかな……?」
”カチッ” と開いた携帯の明かりが、エリの顔を青白く照らした。
携帯の ”北島奈美” と書かれた部分を選ぶと、親指で強くボタンを押した。

北島奈美は夢の森女子学園大学の准教授だ。
以前からストーカーの件で彼女に相談をしていたエリは、今までにも何度か奈
美に助けを求めたコトがあった。
幸いいつも気配を感じるだけで、被害にあったことはない。

ストーカーの恐怖心は、不安という糧を得てどんどん膨れ上がっていく。
「やっぱり時間が遅いのかな? 早く、早く出て、先生……、先生」
何かあったら連絡するのよ……。奈美の言葉がエリの脳裏でこだまする。
エリは携帯と内緒話をするように、両手でそれを耳に当てていた。
目は辺りをキョロキョロと伺い、神経は耳に集中している。
何気に見上げた映画館のポスターは、金髪の女が男に向かって両手でスコップ
を振り上げている。一体どういうストーリーなのか、「シェルブールの薔薇」というタイトルを読むと、エリは目をそらした。

「もしもし、若村さん……」
「あっ、せっ、せん……」
エリはいっそう背中を丸め、両手で携帯を大事そうに持った。
「もしもし? 若村さん、エリちゃんなの? もしもし?」
その声を聞いて、エリはようやく自分が戻ってくるのを感じた。
「先生、エリです」
「どうしたの? こんな時間に。まさか……、またストーカー?」
「は、はい。今、夢の森シネマの前なんですけど、何だかまた誰かに付けられているみたいで……」
「それで相手は、どんな人だか見た?」
「いいえ、振り返っても誰もいなくて、でも、でも絶対誰かいる」
エリは凍えるように背を丸め、体ごと回して辺りを見た。
「そう、夢の森シネマって、商店街の裏にある映画館よね」
「そうです」
「そんな裏道じゃ危なそうだから、どこか明るい所に行きなさい。そうね、
駅前のバスターミナルなら広いし明るいんじゃない?」
「は、はい」
「あたし今から迎えに行くから、駅前にいて」
「わ、判りました」
「なにかあったら大声出すのよ」
「はい……、あの……」
「なに?」
「早く来て下さいね」
「大丈夫、10分くらいで行けるわ。それじゃあね、切るわよ」

携帯が切れると、暗い沈黙が恐怖心となってエリを包み込む。
エリは携帯を握ったまま、来た道を戻るように駅へと走った。
持ち手からブラ下がる白クマが、一緒に走るように弾んで揺れた。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土