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あなたの燃える手で

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W inter Angel


2006年12月22日。今年も残すところ約1週間となった。
クリスマスを控えた金曜日の夕暮れ、マリアは忘れていたクリスマスケーキとローストチキンの予約を済ませ、その帰り道、これもまた忘れていたシャンパンを2本買った。
水色のケーブルニットのセーターに白いダウンジャケットを重ね、その袖口から水色と白の縞模様の手袋が覗いている。頭にはフワフワのボンボンの付いた白いニットのキャスケットをかぶっている。
両手にシャンパンをぶら下げ、頭のボンボンを揺らしながら、マリアはお気に入りのカフェ『アマデウス』の前に立った。ガラスの自動ドアが彼女を迎え入れた。中に入ると、暖かい空気とコーヒーの香りがマリアを包み込んだ。
『アマデウス』は、外出して時間があるときはいつも立ち寄るカフェで、ここのママやアルバイトの響子とも親しくしていた。
「いらっしゃい、マリアちゃん。あらあら重そうね。今日はお買い物?」
「ええっ、すっかり忘れてて。コレを」
マリアは両手のシャンパンを少し持ち上げて見せた。それを見てママの良子が、ハーフを思わせるその顔立ちで優しく微笑みかける。
「いつもの場所空いてるわよ」
40歳になったとは思えない良子は、アップにした髪に手をやりながら、奥のテーブルにマリアを誘った。オレンジ色のセーターに大きな胸の膨らみが見て取れる。ジャケットを脱いで座ると、マリアはレモンティーを注文した。
良子が厨房の奥にいる響子にそれを伝えた。
「よかったわね。シャンパン思い出して」
良子がマリアの両肩から二の腕を、そっと撫で下ろした。
「ええ、忘れたら大変でした。シャンパンもケーキもないクリスマスになっちゃうとこでした」
「そういえば、あさってのイブはマリアちゃんの誕生日だっけ?」
「あっ、そうだ。あとブーツも買わなくちゃ。うふっ」
「まだ忘れてることがあったの?」
「最近、健忘症なんです」
「まぁ、その歳で?」
良子がマリアの髪に、そっと手を触れる。
その時、奥から響子がレモンティーをトレイ乗せて運んできた。
響子はマリアより一回り大きい。薄手のニットにボーイッシュな髪。素足に暖色系のチェックのミニスカートを履いている。そこから伸びた白い太腿がマリアの目に眩しかった。
「マ~リア。はいっ、レモンティー」
響子はテーブルにレモンティーとスライスレモンの乗った小皿。そして注文していないチーズケーキを置くと、良子の隣に並んで立った。
「これは?」
「あたしからのプレゼント。お誕生日おめでとう。マリア」
「おめでとう。マリアちゃん」
「ありがとう。響子。ママさんも」
「ロウソクはないけどね」
思わぬ誕生日プレゼントにマリアの顔から笑みが溢れる。
マリアはスライスレモンをカップに落とした。立ちのぼる香りが仄かに酸味を帯び始めた頃、レモンをすくい出すとカップに口を着けた。長い髪が風に吹かれた砂のようにサラサラと流れた。
そんなマリアの仕草を、良子は熱い眼差しで見つめている。
普段クラッシックを流すこの店も、この時期に合わせてか今日はクリスマスソングが流れている。
「いただきまぁ~す」
マリアは白くなめらかなレアチーズに、銀のフォークを入れ口に運んだ。
「美味しい」
「そりゃアマデウス1番のオススメだもん」
「ほんとに美味しいよ。コレ」
マリアが響子を見上げ2人は微笑み合った。
「どうぞ、ごゆっくり。もう忘れ物がないかよく思い出してね」
ケーキを食べるマリアに良子が優しく微笑んだ。

マリアが館に帰る頃、この街の空には釣り針のような月が輝いていた。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土