花散る午後
4
翌日、奈津子は雪化粧を施した街から、ここ「夢の森駅」に降り立った。
奈津子は茜色に染まった空を見上げながら西口に出た。
まだ正月休み中のこの街に人影はまばらで、薄紫色のダウンに水色のマフラーを巻いた奈津子に、冷たい北風が吹き付けた。
見慣れた街並みを眺めながらターミナルを歩き、幹線道路を渡ると商店街に向かった。商店街には旅行に行くときにはなかった、正月の飾り付けが目立っている。重い旅行カバンとお土産の入った紙袋を両手に持ち、奈津子は寒さに肩をすくめながら商店街の入口近くのカフェに入った。
カフェ「アマデウス」は奈津子が時折利用する店だった。店の入口の張り紙によると、大晦日と元旦意外は営業をしているらしかった。
店内に入った奈津子を暖かな空気が取り囲む。奈津子は通りの見える壁際の席に座った。
「いらっしゃいませ」
この季節にミニスカートから綺麗な脚を覗かせた、ボーイッシュな髪型をした女の子が奈津子の席に水を持ってきた。
「ええっと、ブレンドください」
「はい、ブレンドですね。少々お待ちください……ママ、ブレンドでぇ~す」
そう言いながら、彼女は奥の厨房に姿を消した。
暫くすると彼女がトレイにコーヒーカップを乗せてやって来た。
「お待たせしました。あとコレ、よろしかったらどうぞ」
そう言って彼女は、二つ折りの広告のような薄緑色の紙を置いた。
「ありがとう」
「どうぞ、ごゆっくり」
置かれた紙に目をやると、「夢の森の仲間たち」とタイトルがあった。
それはこの街を紹介するフリーペーパーのタウン誌のようなもので、公共機関や商店街の店の紹介、趣味のサークルなどが載っている。
奈津子はコーヒーカップに口を付けながらそのタウン誌に目を通した。
夢の森病院の診療予定、夢の森シネマの上映案内、そしてこの商店街の年末年始のお買い得情報。勿論この店「アマデウス」の紹介も載っていた。
そんな中で、趣味のサークルの欄に奈津子の目が止まった。
生け花教室『水密流』初心者歓迎。
何か新しいことを始めようと思っているあなた。
美しい花に囲まれて、素敵な生け花を始めませんか。
人数も少人数で、女性だけのとてもアットホームな教室です。
その下には教室の日程や料金などが明記されている。それによると何処かのスペースを借りて教室を開いているのではなく、どうやら個人の家でやっている教室のようだった。その場所も奈津子の家から通いやすい所にあった。
(ここ、行ってみようかしら?)
そう思いながら、奈津子はもう一度コーヒーカップに口を付けた。
香しいコーヒーの香りが奈津子の鼻孔を擽った。
翌日、奈津子は雪化粧を施した街から、ここ「夢の森駅」に降り立った。
奈津子は茜色に染まった空を見上げながら西口に出た。
まだ正月休み中のこの街に人影はまばらで、薄紫色のダウンに水色のマフラーを巻いた奈津子に、冷たい北風が吹き付けた。
見慣れた街並みを眺めながらターミナルを歩き、幹線道路を渡ると商店街に向かった。商店街には旅行に行くときにはなかった、正月の飾り付けが目立っている。重い旅行カバンとお土産の入った紙袋を両手に持ち、奈津子は寒さに肩をすくめながら商店街の入口近くのカフェに入った。
カフェ「アマデウス」は奈津子が時折利用する店だった。店の入口の張り紙によると、大晦日と元旦意外は営業をしているらしかった。
店内に入った奈津子を暖かな空気が取り囲む。奈津子は通りの見える壁際の席に座った。
「いらっしゃいませ」
この季節にミニスカートから綺麗な脚を覗かせた、ボーイッシュな髪型をした女の子が奈津子の席に水を持ってきた。
「ええっと、ブレンドください」
「はい、ブレンドですね。少々お待ちください……ママ、ブレンドでぇ~す」
そう言いながら、彼女は奥の厨房に姿を消した。
暫くすると彼女がトレイにコーヒーカップを乗せてやって来た。
「お待たせしました。あとコレ、よろしかったらどうぞ」
そう言って彼女は、二つ折りの広告のような薄緑色の紙を置いた。
「ありがとう」
「どうぞ、ごゆっくり」
置かれた紙に目をやると、「夢の森の仲間たち」とタイトルがあった。
それはこの街を紹介するフリーペーパーのタウン誌のようなもので、公共機関や商店街の店の紹介、趣味のサークルなどが載っている。
奈津子はコーヒーカップに口を付けながらそのタウン誌に目を通した。
夢の森病院の診療予定、夢の森シネマの上映案内、そしてこの商店街の年末年始のお買い得情報。勿論この店「アマデウス」の紹介も載っていた。
そんな中で、趣味のサークルの欄に奈津子の目が止まった。
生け花教室『水密流』初心者歓迎。
何か新しいことを始めようと思っているあなた。
美しい花に囲まれて、素敵な生け花を始めませんか。
人数も少人数で、女性だけのとてもアットホームな教室です。
その下には教室の日程や料金などが明記されている。それによると何処かのスペースを借りて教室を開いているのではなく、どうやら個人の家でやっている教室のようだった。その場所も奈津子の家から通いやすい所にあった。
(ここ、行ってみようかしら?)
そう思いながら、奈津子はもう一度コーヒーカップに口を付けた。
香しいコーヒーの香りが奈津子の鼻孔を擽った。