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あなたの燃える手で

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春を画く


「それでだ鏡空。一つモデルになってくれないかねぇ」
先生は狐のような目を輝かせ、そう言ったのです。

「興味はあるんだろう? 春画のモデル」
「はぁ、それはまぁ、そうですけどぉ……」
「じゃぁ、一つ頼むよ。やってもらうのはこの絵のモデルさ」
「はい?」
あたしは目を丸くして、もう一度目の前の絵を見つめました。

絵の中の女は両手を後ろで縛られ、全身には白い蝋が無数に垂らされていま
す。股間にはまだ張り型が挿入されたままになっていて、長い縄が山になっ
ていることから、彼女が今まで吊られていたコトが想像できます。ただ床に
置かれた木桶、これがなんなのか、相変わらず分かりません。

先生のアトリエ、アトリエと言えば聞こえはいいのですが、見ようによって
はそれはプレイルームそのものなのです。それもSMのです。
しかも江戸時代風にも使えるように、床や壁は木目調。縛り付けるための太
い木の柱や、吊るすための滑車や縄など、一通りの道具や施設が整っている
のです。
今ならパソコンの描画ソフトなどで、手軽に描く方法もあるでしょう。グラ
フィックとして背景を江戸時代風に入れ替えるとか……。
でも先生は "筆で書く" ということに拘っています。筆で描く絵には、機械で
は出せない "味" というものがあるのです。
あの千手無空が実際に筆で書いた。それも一筆一筆丁寧に……。
それが、それこそが、マニアの間で破格を、オークションでは数百万の値が
付く所以なのです。
この模写だってきっと、それなりの値が付くに違いありません。

「この絵の、通りにですか……?」
「そうだねぇ、その絵の女は責め終わった後の状態だ。でもただ床に寝転ん
で貰ってもねぇ。それなら人形で十分さ……。あたしが欲しいのはね、もっ
と本当に責められた息遣いや肌の火照りなんだよ」
「は、はぁ……」
「責めが終わり、吊られていた体が床に降ろされ、グッタリと力が抜けたそ
の脱力感が欲しいんだ。だからね……・ひっひひっ」
「はい……?」
「まずはお前を吊って、同じように責めてみようかと思う。多分初代もそう
したんだろうねぇ。じゃなきゃ、こうは描けないさ」
「あたし、吊られるんですか?」
「怖いのかい?」
「えっ、えぇ……」
「大丈夫さ。此処には滑車もあるし、女のあたしでも、お前を簡単に吊り上
げるコトができるんだよ」

要するに安全面では問題ないようです。
説明を終えると先生は、さぁ、どうする? と問いかけるような目で、あた
しを見つめました。
もう返す言葉はありませんでした。どのみちあたしは吊られるんです。
答えは最初から "Yes" しかないのです。

あたしはこの日、初めて先生のモデルをしたワケですが、コレが、この日
が、コレこそが、奇妙な日々の始まりだったのです。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土