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百合の宿 卍庵


百合の宿


PROLOGUE
その街並みは、まさに古都と呼ぶにふさわしいものでした。
周りを小高い山々に囲まれた扇状の盆地。その扇を二分するように流れる
川。町のあちこちからは水が湧き、その水は生活用水として、水路を伝って
毛細血管のように町に広がっていきます。
この町には多くの神社仏閣が点在し、そこにはこの町の歴史を物語るよう
に、樹齢数百年の大樹が当たり前のように林立しているのです。

あたしは黒塀の続く細い路地から角を一つ曲がり、町の中央を流れる川沿い
の道に出ました
そこには大きな柳が並び、そのどれもが足元まで枝葉を伸ばし、それが風に
揺れる様は、まるであたしを町の奥へ奥へと誘っているようでした。
そんな柳に誘われるまま、わたしは川を上流へと歩いて行きます。
そこに目指す宿、『百合の宿 卍庵』があるのです。

『百合の宿 卍庵』。そこは男子禁制の女の宿。江戸の昔から女だけの宿と
して、時代の陰に隠れるように、ひっそりと建っている宿でした。
そこに男は一人もいません。客はもちろん、従業員も全て女性なのです。
多くの人は何故そんな宿が、と思われることでしょう。
でもあたしには分かります。それはやはり、昔から "女しか愛せない女達が
いた" ということなのでしょう。
そうです。『百合の宿 卍庵』は、女同士の逢引の宿だったのです。

しかし時代の移り変わりと共に、卍庵は通常の宿として生まれ変わりまし
た。しかしそれは表向きだけのこと。裏では今でも女同士の様々なプレイが
楽しめる宿として、今の時代を生き抜いているのでした。

あたしが卍庵に到着した時、太陽はもう山の稜線に消えていました。
僅かに茜色を残した空には、もう星が輝き始めていたのです。



卍庵は町から少し離れた、山の麓に隠れるようにして建っています。
創業当時は二階建てだった宿も、今や五階建ての重厚な和風建築となりま
した。しかし古き良き品々はそのまま変わらず、百年以上を経過した今で
も、手摺や廊下、アンティークな家具などは隅々まで磨かれています。

正面玄関から中へ入ったあたしを、艶やかな白百合の描かれた着物を着た
一人の女性が出迎えました。年の頃は四十代後半か五十代前半。しっとり
と落ち着いた物腰に優しい笑顔。でもその目はどこか獲物を狙う、狡猾さ
を感じる目でした。
「いらっしゃいませ。ようこそ卍庵へ。当庵の女将でございます」
「三泊四日で予約した『立花かすみ』です。よろしくお願いします」
「はい。存じております。 "五つ百合コース" をお選びいただいた。立花様
でございますね。どうぞ、お部屋にご案内致します」
わたしはスリッパを履き手荷物を女将に渡すと、奥へ奥へと歩いていく彼女
の後をついていったのです。

「もっと早く到着する予定だったんですけど、駅から意外に距離があって」
「はい、ご存知かと思いますが、ここは昔から女の為の宿でして、人目に
つきにくいように町外れに建てられたようでございます」
「はぁ、それで……」
「ここは女と女の宿。ほとんどのお客様が "ソレ" 目的ですので。通常の
宿泊をなさるお客様は、一割もいないかと存じます」
「そうなんですか?」
「はい。各お部屋は完璧な防音室となっておりますので、室内でどんなコ
トが行われようと一切わかりません。ですので皆様安心して、ゆっくりと
お楽しみいただいております。射精で終わる男と違い、女同士の秘事はキ
リがございませんから……。立花様も、女性はもちろん?」
「えぇ、はい……」
「やっぱり、同族でございますね。一目見ればわかりますわ……」
そして女将が歩きながら、チラッと振り向きました。
「立花様、とっても美味しそうでございますね。顔も体も、あたしのタイ
プでございます。うふふっ」

意味深な微笑みを浮かべたまま、女将は廊下を奥へ奥へと歩いていきま
す。通り過ぎる部屋には、それぞれ『百合と桃の間』、『百合と薔薇の
間』、などの名前がついています。
やがて女将は一番奥の部屋の前で立ち止まったのです。
「こちらが今回のお部屋、『百合と柘榴の間』でございます」
そう言って女将は、部屋の襖をスルスルと開けました。
防犯上の都合でしょうか。襖の奥には鍵の掛かるもう一つのドアがあり、
そこで靴を脱いで中へと入るようになっています。
まず目に着いたのは、和風建築になりがちな大きな梁や柱でした。特に柱
は鏡のように磨かれています。青い畳に置かれた低いテーブルと座椅子、
それに床と天井はすべて木目が生かされ、奥にある床の間には、大きな桃
色の百合が二輪活けてあります。でもその後ろの掛け軸は、女同士が股間
を合わせ喘いでいる生々しい日本画でした。

「立花様、今夜は如何なさいます?」
女将が正座をし絵尋ねます。
「今夜?」
「はい。立花様のお選びいただいている "五つ百合コース" は、毎晩当庵
の女性をお選びいただけます」
「えぇ、でも選ぶと言われてもぉ……」
「あたしの見立てでは、立花様はMでございますね」
「はぁ、多分……」
「でも瞳の奥に、冷たいSの光を湛えてございます」
「えっ?」
「おそらくまだ自分でもお気づきでない、Sな一面をお持ちかと……」
「そう……、なんですか?」
「如何でございましょう? ここは思い切ってSになられ、M女をいたぶ
ってみるというのは……」

そんな女将の申し出に、正直あたしは戸惑いました。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土