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あなたの燃える手で

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バビロンリング



テーブルにタロットが並べられ、1枚1枚めくらていく。
そして最後の1枚がめくられた。カードには片足を木の枝に縛り付けられた男
が、逆さに吊るされた絵が描かれている。
「おやおや、どうやら思う人とは……。ダメかもしれないねえ」
「えぇ、本当ですか? このカードって」
「このカードは "吊るされた男" っていってね、頭が下になっているのが正位
置なの。でもこのカードは頭が上になってる。つまりカードが上下逆。だから
意味も反対になるの。
「で、意味は……」
「行動が無駄に終わる。努力が報われない。終わりが見えない。自己犠牲。あ
とはぁ、報酬のない苦痛や試練……」
「あっ、もういいです……。それでですねぇ、あのう、もう1回……、占って
もうらうなんていうのはぁ……」
「それじゃ占いの意味がないわ」
「そうですよねぇ」
「そうだ、散々な結果だった気の毒なあなたには、これをあげるわ」
そういって占い師は小箱を取り出すと、二枚貝のようにその蓋を開けた。
「これって」
箱の中には指輪が一つ入っていた。確かにいかにも指輪が入っていそうな大き
さの箱ではあったが……。
「これはバビロンリングっていってね。クリスマスに一つだけ願いを叶えてく
れる魔法の指輪よ」
「魔法の指輪ぁ」
永遠はマジマジとその指輪を見た。
色は黄褐色で赤土のような色だ。材質は石だろうか。少なくとも金属製には見
えない。デザイン的には宝石も天然石も付いていない。ただのリングだ。
「本当に魔法の指輪ですかぁ?」
「そうよ。この指輪が作られたのは古代バビロニア、今から三千年以上前から
伝わる指輪でね。元々は当時の呪術師が作ったものらしいの」
「三千年前の呪術師が作った指輪、って言われてもなぁ……」
「いいじゃない。貰っておけば? 私からのクリスマスプレゼント。」
「でもぉ」
「あたしにはわかるの。この指輪があなたを選んだのが。だから貰って」
占い師はあたしに押し付けるように、指輪の箱を押し出した。
「クリスマスに一つだけ願いを叶えてくれる魔法の指輪……」
「そうよ。願いとは言葉にせずとも、心に生まれ出ずるもの。このリングはそ
んな願いを叶えてくれるの」
「まぁ、くれるっていうなら、貰っとこうかな……」
「そうよ。指に嵌めてみて……。きっと似合うわ」
「そうかなぁ」
永遠は指を箱から取り上げると、目の高さに持ち上げてもう一度見つめた。
どう見ても普通の指輪にしか見えない。そのへんでいくらでも売っているよう
にも見えるし、悠久の時を経たもののようにも見える。
これを嵌めて夢が叶うなら、それもいっか。どうせ占いは散々な結果だったの
だ。永遠の心に、そんな思いが起こり始めた。
「じゃ、とりあえずサイズだけでも……」
そう言って永遠は、指輪を右の薬指を嵌めた。
「あっ、凄ぉ~い。ピッタリですぅ。これ」
「そう、良かったわ……」
が、その途端。永遠の視界は霧のようなものに包まれた。
「えっ? 何これ。えっ、やだっ、ちょっとぉー」
白い、白い。どっちを向いても白一色だ。
永遠を包み込んだ霧は、どこまでも続いていそうだった。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土