白い魔女
54
その夜、御堂は自分の仕事を終えるとゆかりを迎えに来た。
朝からの雨は、まだ音を立てて降り続いている。
御堂はジーンズに水色のシャツ。その上にデニム地のジャケットを羽織って
いる。ゆかりは桃色のパジャマ姿だ。
「ゆかり、行くわよ。いい?」
「はいっ、今行きます」
ゆかりはベッドから降りると、スリッパを履き窓を閉めた。
病室を出て、誰にも会わずにエレベーターに乗ることが出来た。
1階の廊下を突き当たりまで歩くと駐車場へ出る小さなドアがあり、そこから
外に出る。外に出ると雨音が一段と大きく耳に届いた。ちなみに一般車の駐
車場は病院正面側にあり、ここを訪れる人は正面玄関を利用することになる。
このドアを使うのは病院関係者だけだ。
廊下を歩いてくると突き当たりになるが、建物自体はそこからまだ3メートル
ほどの長さがあり、その部分が院長の専用駐車スペースになっていた。
そこに地下室へのドアがあった。スリッパの儘のゆかりは早足で御堂に着い
ていく。
普段は院長の車で開けにくいドアも、車のない今夜は開けやすかった。
ドアを開けると踊り場ほどのスペースがあり、そこからすぐに地下へ降りる
階段になっている。御堂が照明を付けると、コンクリート剥き出しのつづら
折りの階段が地下深くに延びている。
「こっちよ。いらしゃい」
沙也加からの唐突な質問に千鶴は口ごもった。そんな千鶴に沙也加は更に
たたみかけた。
「ねぇ、誰? もしかしてカレシ? ねぇそうでしょう。そうなんでしょう」
「ええぇ? まぁ、カレシって言うよりは……ファン? かなぁ?」
「ファン? 何々? ファンって。どっかのアイドル?」
「まさかぁ。そんなんじゃないよぉ。でも、あたしは……好きなんだけど」
「んん? 好きって? 片思いかぁ」
「うぅ~ん。そう言うのじゃ無くって、ファン」
「だって好きなんでしょう?」
「あたしはね、でも彼は……」
「ねぇ、誰? 良かったら教えて、千鶴」
「うん。あのね、名前は……鏡一って言うの」
「キョウイチ?」
「うん。鏡に一で鏡一」
「ふぅ~ん。変わった名前ね。でっ? その鏡一君が?」
「えっ?」
「えっ? じゃないわよ。その彼が千鶴を悲しませてるのね?」
「そんな、悲しませるなんて……」
「だっていつも、その携帯見つめっぱなしじゃない」
沙也加は俯く千鶴の頬に、流れる涙を見た。
その夜、御堂は自分の仕事を終えるとゆかりを迎えに来た。
朝からの雨は、まだ音を立てて降り続いている。
御堂はジーンズに水色のシャツ。その上にデニム地のジャケットを羽織って
いる。ゆかりは桃色のパジャマ姿だ。
「ゆかり、行くわよ。いい?」
「はいっ、今行きます」
ゆかりはベッドから降りると、スリッパを履き窓を閉めた。
病室を出て、誰にも会わずにエレベーターに乗ることが出来た。
1階の廊下を突き当たりまで歩くと駐車場へ出る小さなドアがあり、そこから
外に出る。外に出ると雨音が一段と大きく耳に届いた。ちなみに一般車の駐
車場は病院正面側にあり、ここを訪れる人は正面玄関を利用することになる。
このドアを使うのは病院関係者だけだ。
廊下を歩いてくると突き当たりになるが、建物自体はそこからまだ3メートル
ほどの長さがあり、その部分が院長の専用駐車スペースになっていた。
そこに地下室へのドアがあった。スリッパの儘のゆかりは早足で御堂に着い
ていく。
普段は院長の車で開けにくいドアも、車のない今夜は開けやすかった。
ドアを開けると踊り場ほどのスペースがあり、そこからすぐに地下へ降りる
階段になっている。御堂が照明を付けると、コンクリート剥き出しのつづら
折りの階段が地下深くに延びている。
「こっちよ。いらしゃい」
沙也加からの唐突な質問に千鶴は口ごもった。そんな千鶴に沙也加は更に
たたみかけた。
「ねぇ、誰? もしかしてカレシ? ねぇそうでしょう。そうなんでしょう」
「ええぇ? まぁ、カレシって言うよりは……ファン? かなぁ?」
「ファン? 何々? ファンって。どっかのアイドル?」
「まさかぁ。そんなんじゃないよぉ。でも、あたしは……好きなんだけど」
「んん? 好きって? 片思いかぁ」
「うぅ~ん。そう言うのじゃ無くって、ファン」
「だって好きなんでしょう?」
「あたしはね、でも彼は……」
「ねぇ、誰? 良かったら教えて、千鶴」
「うん。あのね、名前は……鏡一って言うの」
「キョウイチ?」
「うん。鏡に一で鏡一」
「ふぅ~ん。変わった名前ね。でっ? その鏡一君が?」
「えっ?」
「えっ? じゃないわよ。その彼が千鶴を悲しませてるのね?」
「そんな、悲しませるなんて……」
「だっていつも、その携帯見つめっぱなしじゃない」
沙也加は俯く千鶴の頬に、流れる涙を見た。