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あなたの燃える手で

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こちら夢の森探偵社

13
ホテルクイーンホリデーの18階には、何軒かの飲食店が入っている。
『Bar MELLOW BLUE』もその中の1つだった。

リンダはエレベーターの中でカツラとモスグリーンのシャツを脱いだ。
それらを手早く帆布のバッグに入れ、何食わぬ顔でエレベーターを降りた。
辺りを見回して奈美と学生の姿を探すと、2人は飲食店の前を素通りし、廊下
を奥へ奥へと歩いていく。
リンダも距離をおき、廊下を奥へと進んでいった。
やがて1番奥に、青いガラスのやや小さなドアが見えてきた。
ドアの上には、黒地にダークブルーで書かれた『Bar MELLOW BLUE』の文
字が輝いている。
2人はそのドアを押し開けると、薄暗い店内へと入っていった。

2人に遅れること数十秒、リンダもそのドアを開けた。
暗い照明。テナーサックスの奏でるスローなジャズ。
正面奥にカウンターがあり、背もたれのない椅子が10脚並んでいる。
その右端に1人の女性客が座っており、奈美と学生は椅子を2つ空けた隣に
座っていた。
カウンターの壁はボトルで埋め尽くされ、その壁を背に、彫りの深い愛くるし
い顔立ちの女性バーテンダーが立っている。
カウンターの他には丸テーブルが4つあるだけだ。

「へぇ~、これがMELLOW BLUEかぁ……」
リンダは2人と距離を置くため、カウンターの左端に座った。
その時バーテンダーは、2つのグラスにトニックウォーターを注いでいた。
そして軽くステアすると、ライムを添えて奈美と学生に差し出した。
「ジントニックです」
カールした金髪を背中で揺らしながら、彼女がリンダの前に立った。第2ボタ
ンまで外した白いYシャツから、胸の谷間が僅かに見える。
「いらっしゃいませ。何にいたしましょうか?」
「えぇ~と、ハイボールと ”ドライフルーツとクリームチーズのサラダ” 」
リンダは、メニューで1番最初に目に付いたモノを頼んだ。
「はい……」
彼女がグラスに氷を入れていく。そしてウイスキーを入れると、炭酸水を注ぎ
入れた。最後にマドラーで1回だけ混ぜると、リンダにグラスを差し出した。
「ハイボールです。あと ”ドライフルーツとクリームチーズのサラダ” ですね」
そう言ってニッコリと微笑むと、彼女はカウンターの中央へと戻っていった。


カウンターの右端に座っていた女性客が、バーテンダーに話しかけた。
「ねぇ、L。あたしもう1杯飲もうかな」
その話し方から、どうやら彼女はこの店の常連らしい。
「桜子、もう3杯目よ。今夜はそろそろ……」
「イイじゃない、あと1杯だけ……。久しぶりに ”あれ” が飲みたいの」
「あれ?」
「Vodka Martini,Shaken,not stirred」
(ウォッカマティーニをステアでなくシェイクで)
「しょうがないわねぇ、これが最後よ……」
「うん。ジェームズ・ボンドに感謝するわ」
Lと呼ばれたバーテンダーは、映画の中で主人公が飲むカクテルを作ると、
桜子というまだ若い女の子に差し出した。
「コレを飲んだら今日は帰りなさい」
「はぁ~い……」
桜子はグラスの脚を持つと、Lにウインクをしてそれに口を付けた。


やがて ”ドライフルーツとクリームチーズのサラダ” がリンダの前に出された。
アンズ、プルーン、レーズンなどのドライフルーツと、1センチ角に切っ
たクリームチーズの混ざったモノに、ピスタチオが少々入っている。器にはス
プーンが添えられていた。
それを一口食べながら、リンダは奈美と学生を横目で見た。
2人はカクテルだけを飲んでいる。今のトコロ、変わったコトは何もない。
「あぁーあ、探偵ってこんな毎日なのかなぁ」
リンダがクリームチーズを口に運んだ時、ドアから1人の女が現れた。
その時リンダの鼻に、甘い香りが漂った。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土