2ntブログ

あなたの燃える手で

Welcome to my blog

こちら夢の森探偵社

14
どこかの有名な香水を匂わせて、その女はテーブル席に着いた。
歳は奈美と同じくらいだろうか。多めに見積もっても30半ばだ。
スラリとした体に、明るいグレーのスーツをパリっと着こなし、同色のミニス
カートからは、白い足がやはりスラリと伸びている。
日本的な美人だが、メイクのせいか ”どこか気の強そうな人” というのが第一
印象だ。腰近くまであるストレートの髪が、この女のキャリアを感じさせる。
「アノ人、Sだな……」
リンダはクリームチーズを噛みながら、そんなコトを思った。

女はテーブル席に座るとハンドバッグを隣に置き、素早く足を組んだ。
両手で肩に掛かる髪を後ろに払うと、書類に目を通すようにメニューを見た。
Lと呼ばれていたバーテンダーが、カウンターを出て女の元に歩み寄った。
「いらっしゃいませ。何にいたしましょうか?」
「そうね、このウイスキーを水割りで……。それとスロープシャーブルー」
「こちらは塩分と青カビの匂いが強いチーズですが……」
「いいわ、それが好きなの」
「かしこまりました。比較的ドライで口に残らないので、水割りにはとてもよ
く合います」
Lがカウンターに戻ると、女はタバコに火を点けた。
スローなテナーサックスに、ジッポを開ける ”カチッ” という音が混ざる。
そして店内を見回しながら、カウンターの4人を舐めるように見た。

程なくLが、水割りとチーズを女のテーブルに置いた。
「素敵なお店ね……」
「ありがとうございます」
「あの右端の可愛い子、あなたの彼女?」
「はっ?」
「だってあなたのコト、ずぅ~っと見てるわよ」
「そ、そうですか?」
「いいの、判るの。あたしもそうだから。でも安心して、人の恋路は邪魔しな
いから……。三角関係なんてまっぴら」
「それを聞いて安心しました」
Lがニッコリと微笑む。
「でも真ん中の2人……。あの2人はまだそうでもないみたい」
女の視線が、奈美とエリに注がれた。
「あの年上の人。彼女タイプなんだけど、知らないかしら」
「いえ、初めてのお客様です」
「そう、残念ね」
「人の恋路は邪魔しないのでは……?」
「きちんと両思いの2人ならね。でもあの2人は、まだまだこれからみたい。
あたしの入り込む余地 ”あり” と見たわ」
そう言って彼女は、その場で水割りを一気に飲み干した。
「同じモノをもう1杯くれる」
「はい」
Lは空になったグラスを持ちカウンターに戻ると、同じ水割りを作って彼女の
テーブルに置いた。 
「ねぇ、コレッ。アノ人に渡して……。二人連れの年上の方よ。出来れば連れ
の若い子にはバレないようにしてね」
彼女は二つ折りにした小さな紙をLに渡した。
「はい」
Lは紙をポケットに入れ、僅かに微笑むとカウンターに戻った。

奈美とエリは会話を楽しんでいる。しかし、リンダは聞き耳を立てていた。
それほど広くない店内で、Lと彼女の会話は、ジャズの音色に混じって所々聞
き取れた。
「アノ人、北島奈美に……。怪しい、絶対絶対怪しい」
リンダはドライフルーツを一口食べると、ハイボールを飲んだ。
「それにしても北島奈美とあの子って、ホントにそういう関係? あのテーブ
ルの人は、前から北島奈美を知ってたのかな?」
リンダがふと横を見ると、2人の様子がおかしいコトに気が付いた。
「エリちゃんお酒弱いのね。1杯でこんなになっちゃうなんて……」
「すみません。たぶんお腹空いてるから余計に、効いたかも、しれません」
エリは居眠りをするようにカウンターに突っ伏した。
「エリちゃん……」
奈美がエリの背中を叩いたとき、Lがポケットから小さな紙を取り出した。
「すみません、お客様。テーブル席のお客様からです」
Lはその紙を奈美に渡した。

Comments 0

Leave a reply

About this site
女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
About me
誠に恐縮ですが、不適切と思われるコメント・トラックバック、または商業サイトは、削除させていただくことがあります。

更新日:日・水・土