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あなたの燃える手で

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夢の森歌劇団


夢の森歌劇


PROLOGU 
暗転した舞台が、漆黒の闇に包まれた。
数秒後、細いスポットライトが舞台中央を照らし出す。するとそこには、血
だらけの西洋甲冑に身を包んだ、『風待吹雪』が一人立っていた。
彼女が右手に持った太い剣を、まるで稲妻を呼ぶかのように振り上げると、
舞台は再び煌々とした光に包まれた。

「我々は勝った。この戦いに勝利したのだ。たとえこのわたしが倒れようと
も、我々の勝利は揺るがない……。見るがいいあの無数の旗を、聞くがいい
我らが同志のあの歓声を……」
しかし勝利を確信した彼女は敵に囲まれていた。
無数のライフルが彼女に狙いを定め、発砲の時を待っている。やがて敵将が
手を振り下ろすと、無数の銃弾が彼女を貫いた。
直後、援軍が彼女のもとに駆けつけ、敵は一掃された。
彼女は片膝立ちになった恋人に抱えられ、その胸で息を引き取った。
暗転していく舞台で、細いスポットライトが二人を照らしていた。


1 
『夢の森歌劇団』「第9回公演:天 地 乱」 その最終公演は、盛大な拍手の
もとに終了した。
「天 地 乱」は、フランス革命に着想を得た広大な架空のストーリーだ。
時は中世、架空の国。王族の圧政により、塗炭の苦しみにある民衆を救うべ
く、ジャンヌダルク的なヒロインが民衆を率いて立ち上がる。
特に王族を打ち倒し自由を手にしながらも、最後に敵の銃弾に倒れる場面
は、多くの観客の共感と涙を誘った。

『夢の森歌劇団』は、女性だけの劇団だ。スタッフから演者まで、総勢数百
名に上る劇団員に男の姿はない。
あるとすればそれは、男役を演じる女性の男装した姿だ。

舞台に大きな幕が降りる時、男役のトップスター『風待吹雪』と、女役のト
ップスター『光星綺羅』の手には、大きな花束が抱かれていた
幕が完全に降りると、演者は一列になって舞台袖へと流れた。
楽屋へと戻る通路で、演者達は多くのスタッフや後輩達に捕まった。中でも
二人のトップスターの人気は、その辺のアイドル以上のものがあった。

「お疲れ様でした吹雪さん。もう最高でしたぁ、あたし、あたしもう……」
「この作品がいつまでも続けばいいのに、もう千秋楽だなんて……」
「吹雪さぁん、お疲れ様でしたぁ」「
「綺羅さぁ~ん、ホントにお綺麗でしたぁ。可愛かったでーす」
「女の強さ、見せて貰いました。次の作品も期待してまぁ~す」
「綺羅さぁん、大好きでぇす」
声を掛けてくるスタッフ達は皆、手にしたハンカチで涙を拭いている。
舞台衣装のままの風待吹雪と愛星綺羅は、スタッフや劇団員で溢れかえる通
路を体を横にしながらすり抜けていく。
「ありがとう、無事千秋楽を終えたけど、なんだか寂しいよ」
「もう、みんな泣かないで……。次の作品でまたお逢いましょう」
「吹雪さぁ~ん。またよろしくお願いしまぁす」
「綺羅さぁ~ん。あたし待ってまぁ~す。いつまでもぉ~」
通路からエレベーターホールに出ると、係の者がひと足先にボタンを押す。
エレベーターが来る間、二人は押し寄せる人波に手を振った。
「ありがとう、ありがとうみんなぁ~」
「本当にお世話になりましたぁ。また逢いましょうねぇ~」

二人はエレベーターに乗り込むと、扉が閉まるまで手を振り続けた。
やがてエレベーターは扉を閉じ、二人を楽屋のある3階へと連れていった。
途中、密室の中で綺羅が吹雪に寄り添い、その手を握ろうとした。
「ダメだよ綺羅。そこにカメラがあるだろう」
吹雪が天井にある、ドーム型のカメラをチラ見する。
「そうね、ごめんなさい」
「楽屋に入ったら……、ねっ」
「うん……」
3階には10秒弱で着いた。
二人は静かな廊下を並んで歩き、吹雪の楽屋に一緒に入った。
楽屋の扉に鍵はない。しかし二人はドアを閉めると、互いに背中に両手を回
して抱き合った。
「ずっとこうしたかったの、吹雪」
「あぁ、僕もだよ。綺羅」
吹雪が男役の口調で答えると、二人はゆっくりと唇を重ねた。


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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土