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あなたの燃える手で

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小料理屋の二階


料理の二階

PROLOGU 

駅の西口を出て、バスターミナルを迂回するように歩くと、大きな幹線道路
にぶつかる。そこにある横断歩道から、その商店街の入り口は見えた。
商店街には並行した裏道があり、そこには昭和の面影を残す映画館や、妖艶
な微笑みを浮かべる熟女がいる本屋などがある。
しかし今回はそんな裏道にひっそりと佇む小料理屋、『百合の小径』が舞台
となる。


あたしは毎年、少し遅い初詣をする。理由は二つ。ひとつは混雑を避けると
いうコト。もう一つは、あるお店でお正月限定のお料理を頂くコトだ。
その店は夢の森商店街の裏道にある百合の径道という小料理屋で、この店は
毎年正月五日から営業する。
だからあたしは、この店の開店に合わせて初詣に行くわけだ。
そんなわけで、今年も初詣の帰り道、あたしは百合の小径に向かっていた。そして今年からは新社会人になるあたしは、気持ちも新たに、店の戸を "ガ
ラリ" と引き開けた。

「あらっ、いらっしゃい。久留美ちゃん」
ポカポカに温かな空気、お惣菜の香り、そして和服姿の女将さんの笑顔、そ
れらがあたしを一度に迎えてくれた。
「あけましておめでとうございます。女将さん」
「おめでとうございます。今年もよろしくね久留美ちゃん」
「はい、こちらこそ。美味しいお料理食べさせて下さい」
「はい、こちらこそ。いっぱい食べて下さい」
あたし達は笑いながら "ペコリ" と頭を下げた。
「どうぞ、好きなところに座って……」
「はぁ~い」
「今年もくるみちゃんが一番乗りね」
あたしは女将さんの目の前、八人掛けのカウンターの真ん中まで歩くと、壁
のハンガーにコートを掛けてから座った。
何かの煮付けだろうか、甘辛い香りが鼻先をくすぐる。
「女将さん、お正月限定のお料理……、お願いします」
「はいはい、ちゃんと作ってありますよ……」
「やったぁー。 ありがとうございますぅ。そういえば女将さん、今日は着
物なんですねぇ」
「まぁお正月くらいは着ないとね……、着る時ないでしょう。うっふふふ」
「なるほどぉー。うっふふふ」
笑い声と共に出される品々を、あたしはお腹に収めていった。
「女将さん。あたしも今年から社会人一年生ですよ」
「あらっ、早いわねぇ。それじゃ、一杯ご馳走するわ」
「そんなっ、あたしそんなつもりじゃ……」
「いいからいいから、お祝いさせて……。寒いから熱燗でいいわよね」
「はっ、はい……」


「あらっ、雨が降ってきたわ……」
視線をやった窓の外、街灯の光の中、無数の銀色が線を引いて落ちていく。
「あっ、ホントだ」
「今日はお客さんも来ないようだし、もう閉めようかしら」
女将さんは開けた窓の雨戸を閉めた。
「えっ? まだ早いのに……」
「いいのよ、久留美ちゃんが来てくれたから、それで十分」
「もう、女将さんったらっ、上手いんだからぁ」
「暖簾、仕舞うわね」
女将さんは暖簾を仕舞うと、そのまま戸を閉め鍵をかけた。
「寒いわねぇ~。あたしも飲もうかしら?」
「賛成ぇ~。そうしましょう」
「それじゃあたしも熱燗で……」
そして数分後、女将さんはお盆に二本の徳利を乗せてあたしの隣に座った。


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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土