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あなたの燃える手で

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最終上映

【20万ヒット記念作品】

                 上 映


プロローグ
『夢の森駅』の西口を出て、幹線道路を渡ったところに商店街がある。
その商店街と平行した裏通り。赤提灯の下がった居酒屋が何軒か並ぶその先に、『夢の森シネマ』はあった。
単館作品を専門としたその小さな映画館は、40年近くもこの街の人に愛され、小さいながらも堂々とした風貌でそこに建っていた。
2階建ての薄汚れたコンクリートの壁には、大小のヒビが無数に走っている。
入口の前に立つと、開け放たれた観音開きのドアの両側に、上映中のポスターと、次週上映されるポスターが貼られている。
入口の上には『YUMENOMORI CINEMA』と、曲がりくねったオレンジ色の蛍光管が、今も煌々と輝いていた。


証券会社に勤める水原詩織は、この裏通りが好きだった。特に雨上がりの裏通りはいつもより趣がある。裏通りを歩くのは、人の多い商店街を歩くよりも落ち着くからだ。
そして時折思い出したように、この『夢の森シネマ』で映画を観た。それは一般作よりも、ここでしか観れない映画という所に価値感を感じるからだった。
冷たい木枯らしに思わず肩がすくむ。コートの襟を赤いマフラーの上で合わせ、詩織は雨上がりの裏通りを歩いた。
やきとり屋の煙を押しのけしばらく歩くと、『夢の森シネマ』のオレンジ色の光が、濡れた路面を淡く染めているのが見える。
今上映されているのは「夜霧の口づけ」というフランス映画だった。
最終上映の時間まではまだ15分程ある。26歳になった記念の夜ということもあり、詩織はこの作品を観ることにした。
チケットを買い、2階へと上がる細いエスカレーターに乗った。
味気ない蛍光灯の光に照らされた2階に人の姿はなく、コーヒーの自販機が1つと、その横に映画のチラシを並べた机が置かれているだけだった。反対側にはトイレへの通路がある。
若干の寂しさはあるが、詩織にはむしろこの方が落ち着いた。
コーヒーを買いチラシを1枚もらうと、場内へ入る古い木製のドアを開けた。
正面の小さなスクリーンの前に、80席程の色あせた葡萄色のシートが整然と並んでいる。場内には回りの壁沿いと、中央に通路がある。誰もいない場内を、いつもの一番後の左端のシートへと歩いた。隅のシートにバッグを置き、コートとマフラーを脱ぐとその上に掛け、自分はその隣のシートに腰を下ろした。ストッキングを掃いていない膝上のスカートは、座ると白い形のいい太股の半分以上が露出した。
上映まではまだ10分程の時間があった。詩織はコーヒーを飲みながらチラシに目を落とした。これから上映される「夜霧の口づけ」のチラシだった。
その頃になって数人の客が入ってきた。
最初に入ってきたのは1組のカップルだった。彼らは中央の通路を中程まで歩き、通路の右側に座った。続いてサラリーマンが1人、右端の壁沿いの通路を歩き、スクリーンに近いシートに座った。
最後に40歳位の綺麗な女性が中央の通路の左側に座った。そのシートは詩織の座る一番後の左端から、2列前の中央寄りだった。
上映のブザーが鳴り、場内が暗くなった。詩織はチラシをコートの上に置き、飲み干したコーヒーを床に置くと、肩に掛かる髪を軽くほぐした。
その時、キャップを目深にかぶった一人の女性が入ってきた。彼女は後の通路を左に歩き、横から詩織に声を掛けた。
「すみません。ここいいですか?」
女性らしい包み込むような声だった。
「ええっ、どうぞ」
詩織は腰を浮かせ彼女のために隙間を空けた。彼女は詩織の前を窮屈そうに横切ると、その隣に座った。

Comments 2

マロ  

古い映画館って趣があって良いですよね。
これから、何が起こるのか楽しみです。

このテンプレート、綺麗ですねー。
季節感があって素敵です。

2007/11/14 (Wed) 06:21 | EDIT | REPLY |   
蛍月  
マロさんコメントありがとうございます

今回は映画館の中での出来事ですので、
余りハードなことは出来ませんが、
最後にちょっとしたオチを用意しています。
(*^_^*)

このテンプレート、自分でも気に入っています。
3回しか使わないのがもったいない気が・・・。

2007/11/14 (Wed) 19:30 | EDIT | REPLY |   

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土