2ntブログ

あなたの燃える手で

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2人のフォトグラフ



その日の昼、詩織と璃緒は駅まで買い物に出掛けた。
駅前のバスターミナルを歩き、幹線道路の横断歩道で赤信号に掴まった。横断
歩道の向こうには夢の森商店街があり、その入口にある「アマデウス」という
カフェの看板が目に入った。
「ねぇ、お姉ちゃん。コーヒーでも飲んでいこうか……」
「うん」
2人は横断歩道を渡ると、窓際のテーブルに座った。
するとスグに、ミニスカートから綺麗な脚を見せた、ボーイッシュなショート
カットの子が注文を取りに来た。
詩織は彼女にコーヒーを2つを注文した。
「はい、コーヒー2つですね……。ママ~、コーヒー2つでぇ~す」
奥の厨房へ声を掛けながら、その子は姿を消した。

「今の子の脚、綺麗だったね」
璃緒は彼女が歩き去った厨房の方を身なら言った。
「もう、璃緒ったら……」
「だってぇ~」
「そんなコトより、珍しいわね。璃緒が買い物に誘うなんて……。何か話でも
あるの?」
詩織は今朝、買い物に誘った時の璃緒の思い詰めた顔が気になっていた。
「あのねお姉ちゃん」
「なぁに?」
「あたし、春になったら……、っていうか……、4月から……ね」
そこで会話が途切れ、暫し沈黙が続いた。
「んん? 4月から……? 何よ……」
「写真の勉強で……、オーストラリアに行ってくる」
「えっ? オーストラリア? いつまで? いつ帰ってくるの?」
「一応、予定は1年。向こうでアシスタントやりながらだから、もっと長くな
る可能性は大……、かな……」
「そう、そうなんだ。それって喜んでいいんだよね」
「もちろんだよ。妹がプロのフォトグラファーになる第一歩を踏み出したんだ
から。精一杯喜んでよ」
「そっか……、そうだよね」
それで……今朝あんな顔をして……。この子、案外寂しがり屋だから……。
すると璃緒は、バッグの中をゴソゴソと探り出した。
「ねぇ、お姉ちゃん。写真撮ろう。あたしカメラ持って来たから……」
「うん。いいわよ」
璃緒はバッグからカメラを取り出すと、小さな三脚を付け、それをテーブルに
セットすると角度を調整した。そして最後にセルフタイマーをセットすると、
急いで詩織の隣に座った。
「乾杯しよう、お姉ちゃん」
「乾杯って、コーヒーで」
「うん、いいから、早く……。シャッター切れちゃう。あと5秒……」
「う、うん、それじゃ、はい」
2人はカメラを見ながら、コーヒーカップを近づけた。
「いくよ、はい。カンパ~イ」
2人の声に、乾杯の "カチン" という音が重なった。
思いの外大きな音が鳴って、チョット驚く詩織の顔。そして驚く姉を見て無邪
気に笑う璃緒の顔。
そんな2人の表情を、カメラは几帳面に切り取った。



EPILOGUE
オーストラリアに向かう飛行機の中、璃緒はポケットから1枚の写真を取りだ
した。それは正月に商店街のカフェで撮った、あのコーヒーで乾杯をした写真
だった。
「お姉ちゃん……」
自分で決めたコトなんだから、しっかり頑張ってらっしゃい。
プロのフォトグラファーになるのが、璃緒の夢なんでしょう。

「うん、そうだよ。それがあたしの夢。お姉ちゃんに会えないのは寂しいけ
ど、頑張ってくるね。それであたし、絶対絶対プロのフォトグラファーになる
んだから。その時は、お姉ちゃんの寝顔を一番最初に撮って上げる」
璃緒は涙がこぼれる前に笑顔になった。

小さな窓からは、真っ青な空と海が水平線で繋がっていた。



ーENDー


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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土