百合の宿 卍庵PROLOGUE その街並みは、まさに古都と呼ぶにふさわしいものでした。周りを小高い山々に囲まれた扇状の盆地。その扇を二分するように流れる川。町のあちこちからは水が湧き、その水は生活用水として、水路を伝って毛細血管のように町に広がっていきます。この町には多くの神社仏閣が点在し、そこにはこの町の歴史を物語るように、樹齢数百年の大樹が当たり前のように林立しているのです。あたしは黒塀の続く細い路地か...