26『汐月』は、隣町にある二階建ての小さな和風旅館だ。その地味で入りやすい佇まいの入り口に、月子は足早に入った。入り口から二階に上がった一番奥、そこに『牡丹の間』はあった。この部屋は階段の関係で、他の部屋と壁が接していない離れのような作りになっている。中に入れば八畳の居間と六畳の寝室。それとバス・トイレという単純さだ。居間には座椅子と木目のテーブル。テーブルには急須と二つの茶碗。それにポットが置いて...