ロザリオは赤く輝く
† 11
「春奈さん。春奈さん。大丈夫ですか?」
「えっ? あっ、紫苑様。わたしは……」
どれくらいの時間が経ったのか、時間の感覚を完全に失っていたわたしには分
かりませんでした。気を失っていたのでしょうか。気が付くとわたしは、あの
小屋の手術台のような硬いベッドに横たわっていました。
体には薄い毛布が掛けられています。
傍らに立つ紫苑様が、微笑みながらわたしを見下ろしていました。
「大丈夫ですか? 春奈さん。本当に乳首だけで逝ってしまいましたね」
「そんな。本当に恥ずかしかったです」
「その時のあなたを、全部見せてもらいましたよ」
「ああ、わたしは全てを紫苑様に……。でもわたしは、わたしは悪魔に負けてしまいました。わたしはまた紫苑様に、この体を。今度こそきっと……」
「あなたが本当にその体を清めたいと思うならば、またここへおいでなさい」
「はい」
「そこでシャワーを浴びて、風邪を引かないうちに早く着替えた方がいいですよ。外は寒いですからね」
全体を木目調で統一されたこの小屋の内装に、そのシャワールームのドアだけが、アルミの枠に曇りガラスで不釣り合いな印象でした。
わたしは言われるままに、熱いシャワーを浴びました。その間シャワールームのドアの向こうから、じっと見つめる紫苑様の視線を感じていました。
わたしは着替えを済ませ、紫苑様と小屋を出ました。
紫苑様は、わたしを門の所まで見送りに来てくれました。
強かった北風も今はおさまり、雲の隙間には星も瞬いています。
「今夜はありがとうございました」
わたしが深く頭を下げると、紫苑様はわたしに歩み寄り、この体を抱きしめま
した。そしてそのまま耳元に口を寄せると言いました。
「良ければ明後日の、日曜日の夜に待っています」
「はい」
わたしが小さな声で返事をすると、紫苑様は1度わたしを強く抱きしめてから離れました。そして紫苑様は、名刺くらいの2つ折りの紙を差し出しました。
「これは、わたしのPCのアドレスです。何かあればメールをして下さい」
「はい。ありがとうございます」
わたしはその紙を受け取り、教会の敷地から1歩出ると紫苑様を振り返り、もう1度頭を下げました。
紫苑様の胸のロザリオが、月の光を冷たく反射していました。
家のベッドに横たわると、わたしはあの教会を思い出していました。
昔、母に手を引かれて通っていた教会……もしかしたら……まさか……。
記憶の中の教会は霧の向こうに隠れ、その全貌を見ることが出来ないのです。
そしてその霧に包まれるように、わたしはいつしか眠りに付いたのでした。
「春奈さん。春奈さん。大丈夫ですか?」
「えっ? あっ、紫苑様。わたしは……」
どれくらいの時間が経ったのか、時間の感覚を完全に失っていたわたしには分
かりませんでした。気を失っていたのでしょうか。気が付くとわたしは、あの
小屋の手術台のような硬いベッドに横たわっていました。
体には薄い毛布が掛けられています。
傍らに立つ紫苑様が、微笑みながらわたしを見下ろしていました。
「大丈夫ですか? 春奈さん。本当に乳首だけで逝ってしまいましたね」
「そんな。本当に恥ずかしかったです」
「その時のあなたを、全部見せてもらいましたよ」
「ああ、わたしは全てを紫苑様に……。でもわたしは、わたしは悪魔に負けてしまいました。わたしはまた紫苑様に、この体を。今度こそきっと……」
「あなたが本当にその体を清めたいと思うならば、またここへおいでなさい」
「はい」
「そこでシャワーを浴びて、風邪を引かないうちに早く着替えた方がいいですよ。外は寒いですからね」
全体を木目調で統一されたこの小屋の内装に、そのシャワールームのドアだけが、アルミの枠に曇りガラスで不釣り合いな印象でした。
わたしは言われるままに、熱いシャワーを浴びました。その間シャワールームのドアの向こうから、じっと見つめる紫苑様の視線を感じていました。
わたしは着替えを済ませ、紫苑様と小屋を出ました。
紫苑様は、わたしを門の所まで見送りに来てくれました。
強かった北風も今はおさまり、雲の隙間には星も瞬いています。
「今夜はありがとうございました」
わたしが深く頭を下げると、紫苑様はわたしに歩み寄り、この体を抱きしめま
した。そしてそのまま耳元に口を寄せると言いました。
「良ければ明後日の、日曜日の夜に待っています」
「はい」
わたしが小さな声で返事をすると、紫苑様は1度わたしを強く抱きしめてから離れました。そして紫苑様は、名刺くらいの2つ折りの紙を差し出しました。
「これは、わたしのPCのアドレスです。何かあればメールをして下さい」
「はい。ありがとうございます」
わたしはその紙を受け取り、教会の敷地から1歩出ると紫苑様を振り返り、もう1度頭を下げました。
紫苑様の胸のロザリオが、月の光を冷たく反射していました。
家のベッドに横たわると、わたしはあの教会を思い出していました。
昔、母に手を引かれて通っていた教会……もしかしたら……まさか……。
記憶の中の教会は霧の向こうに隠れ、その全貌を見ることが出来ないのです。
そしてその霧に包まれるように、わたしはいつしか眠りに付いたのでした。