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あなたの燃える手で

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マリアの休日

☃2
マリアがママの車から空を見上げている頃、箱根の名旅館『錦明楼』の大広間
では、12時から新年パーティーが始まっていた。形式はビュッフェだ。
麗子は何人もの人間と挨拶を交わし会話をしながらも、その胸のうちは落ち着
かないものがあった。
それは到着する前から降り始めた雪が激しさを増し、辺り一面を白く塗りつぶ
し始めているコトだった。厚い雲に閉ざされた空は暗く、この雪がやむ気配は
ない。
麗子は窓辺に歩み寄り、1人外を眺めた。
箱根の錦明楼といえば、老舗の名にふさわしい大きな日本庭園が有名だ。
苔むした岩や木々の向こうには、錦鯉の泳ぐひょうたん型の池があり、その向
こうにある小高い山からは滝が流れ落ちている。秋ともなれば、紅葉が燃える
ようなその色を水面に映した。
しかし今は、その全てが雪に覆われている。

「もしかしたら帰れないかもねぇ……」
「お車でお越しですか? 氷見川様」
背中から聞こえたその声に、麗子はチョット驚いて振り向いた。
そこには鶯色の和服を着た、清楚な女性が立っていた。
歳は三十歳前後。卵形の輪郭に鼻筋が通り、クリッとした目と卑猥な唇が印象
的な美人だ。輝くような黒髪を、今はアップにしてまとめている。
「アナタは……?」
「大変申し遅れました。わたくし、この錦明楼の女将をしております」
「まぁ、お若いのに」
「いいえ、とんでもございません。氷見川様にはとてもかないませんわ。それ
に尊敬しております。大きな会社を経営されているその手腕」
「まぁ、お上手ねぇ」
「それにしても……、この大雪じゃ、帰れなくなるかもしれませんね」
女将は窓から雪の降る表を伺い見た。
「やっぱり無理かしら」
「えぇ、これから気温が下がると、路面も凍結しますから」
「あぁ、そんな道……、とても運転出来ないわ」
麗子は女将を見て微笑んだ。
「よろしければこちらで車をお出ししますが……」
「あら、そう?」
「うちの運転手なら雪道も慣れておりますから」
「でもそれだと車を置いて帰るコトになるし……。どうしようかしら?」
「氷見川様? もしよろしければ、御一泊なされては……」
その目は熱く麗子を見つめ、唇はニヤリと笑っている。
「氷見川様なら、"離れ" を格安でご案内させていただきますが……」
「離れ?」
「えぇ、この庭の向こうにある平屋の別館です。ちょうどあの滝の向こうに」
どうやら離れは、小高い山の陰になってココからは見えないようだ。
「離れはこのホテルのどの部屋からも見えませんから、よくお忍びの方なんか
がご利用になります」
「あらそうなの。別にお忍びじゃないけど、落ち着けそうなトコロね」
「はい。それはもう……、ゆっくりとおくつろぎいただけるかと……」
そう言った女将の手が、麗子の手をそっと握った。
「……?」
「氷見川様のお言いつけなら、あたしはどんなコトでも……」
「あなた、そうなの?」
「はい、わかりますわ。同じ性癖を持った者同士ですもの。それに、あの離れ
ならピッタリです。秘密の出会いには……」
卑猥な唇が、麗子を誘うように妖しくつり上がる。
麗子は女将の手を握り返した。
「可愛い子猫ちゃんね。そんなに可愛いと虐めたくなっちゃうわ」
「どうぞ、お気の済むまでお好きなように……。それでは失礼します」
女将は一礼すると、背を向けて招待客の中に消えていった。
「そう、離れ……。いいかもしれないわねぇ」

麗子の心は、もう決まっていた。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土