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あなたの燃える手で

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白い魔女 2


院長室にはシャネルがわずかに香っていた。
ざっと20畳程の広さの部屋。右の壁にソファとローテーブル。ソファの横にはドアがあり、奥にもう一部屋ありそうだ。
そして反対側には、一際目を引く50インチはあるモニターがあった。
正面の窓からは大銀杏のある中庭が見下ろせる。
窓の手前の大きな机に、院長が美咲に背を向けて座っている。
その机の隅には未整理の書類が積み上げられ、御堂の届けた書類ファイルがその一番上に乗っていた。

「今日から業務に就く、秋山美咲さんです」
「秋山美咲です。よろしくお願いします」
院長の背に一礼した美咲の前で、院長は椅子ごとクルリとこちらを向いた。
頭を下げた美咲の目に、椅子の上で組んでいる綺麗な脚が見えた。それは女性の美咲が見ても艶めかしいものだった。
頭を上げた美咲は院長を見た。
スラリとした体型に、背中の中程までありそうな栗毛色の髪。白衣の裾を割って組まれた美脚。端正な顔立ちに掛けた縁なしのメガネが、切れ者そうな雰囲気を醸している。

「院長の如月真弓です。よろしく」
そう言った切れ長の目が、メガネの奥でキラリと光る。
「秋山さんね、可愛いわね。それに美咲っていうお名前も……。婦長、配属はもう決まっているの?」
「はい、内科の外来をと思っております。今日は初日ですので、とりあえず院内の案内をしていました」
「そう、これから特別な患者が来るんだけど、彼女の案内が終わったら連絡して。いいかしら? 御堂婦長」
「はい……」
「それじゃ、お願いね」
御堂と美咲は一礼した。その顔を上げた時にはもう、院長は背を向けていた。
2人は静かにドアを閉め、院長室を後にした。

その後、B棟を案内された美咲は、A棟の外来受付まで戻ってきた。
その時、外来受付に経つ1人の女性に目がとまった。
セミロングの黒髪に明るめのグレーのブレザー。同色のスカート。
「あれ……?」
見覚えのある後ろ姿。その女性は受付を済ますと横を向いて歩き出した。
胸には空色のセーターが見え、顔はサングラスをしている。
「あの歩き方……、冬香先生?」
それは間違いなく美咲の通っていたピアノ教室の教師、白井冬香だった。
ヨーロッパの有名コンクールで賞を取った彼女は、今や日本を代表する有名ピアニスト1人となっていた。
「まさか、こんなところで会うなんて……、冬香先生」
美咲の中で燻る熾火に、小さな炎が灯った。
御堂も彼女のことは知っていたようだ。
「あらっ? あの人……、ピアニストの白井冬香じゃない?」
「そうです、白井冬香ですよ婦長。あたしあの人にピアノ習ってましたから、サングラスしてるけど、多分間違いありません」
「まぁ、本当? 凄いじゃない」
「でもその頃はまだ……、今ほど有名だったわけではありませんから」
2人は興味本位で彼女の後ろ姿を目で追った。
彼女はエレベーターに消えたが、ランプは4階まで上がっていった。
「婦長、もしかしたら、院長の言っていた特別な患者って……」
「多分ね……、あたしもそう思うわ」

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土