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あなたの燃える手で

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白い魔女 2

白い女 2

復讐の旋律

エピローグ
電車のドアにもたれて外を眺める美咲の目に、懐かしい景色が広がり始めた。
10年ぶりに見るその眺めは、確かにどこか変わっていた。でもどこが変わったのか判らない。
そんな曖昧な記憶を彷徨う美咲の肩を揺らし、電車はホームに滑り込んだ。
彼女は改札を抜けるとその足で西口に出た。
毎日使ったバスのロータリー。幹線道路を挟んだ商店街の入口にある、学生時代によく行ったカフェはまだやっていた。
それらを見回すと踵を返し、今度は東口に向かった。

10年前、ある夢を諦め逃げるようにこの街を後にした美咲。
もし彼女に出会ったら……。
その時はその時か……。
美咲の中で熾火(おきび)のように燻り続ける思いは、今も赤く輝いていた。

東口側には古い街並みが多く残る。その中で一際目立つ白い建物があった。
「あぁ、あそこね……。夢の森病院」
美咲は、10年前にはなかったその病院を目指して歩き始めた。


病院の正門に立つ美咲の足元に、数枚の銀杏の葉が渦を巻いて飛んでいった。
「へぇ、あの大銀杏の所に病院を作ったんだ……」
昔からある高さ30メートル程の大銀杏。その銀杏を挟むように高さの違う二つの病棟が平行に建っていた。

美咲は正面玄関を入ると、すぐ横にある病院の平面図を見た。
今、美咲がいる病棟が2階建ての外来用のA棟。そして大銀杏の向こう側に経っている4階建ての病棟がB棟というらしい。
「B棟、こっちは入院患者がいるのかしら?」
独り言を言う美咲の後ろを、松葉杖をつく外来患者がゆっくりと通り過ぎた。
振り返ると突き当たりに外来受付が見える。
「それでA棟とB棟は渡り廊下で繋がっていると……」
平面図は中心に大銀杏を、そしてコの字形になった2つの病棟を太い線で描いていた。

美咲は赴任してきた旨を告げると手続きをし、簡単な挨拶を済ませた。
手続き上の関係で、美咲の着任は3日後からということになった。

そして3日後。白衣に身を包んだ美咲の姿がナースステーションにあった。
わずかに明るく染めた髪。大きな瞳を持った童顔に細身の体。それらが若い美咲を更に若く見せ、それはまるで女子高生のようにも見えた。
御堂雪絵という婦長の横に立つ美咲の前には、十数人のナース達が不規則に並んでいる。
「今日から皆さんと一緒に働くことになった秋山美咲さんです」
婦長が美咲の肩に手を掛け、みんなに紹介した。
並んで立つと、御堂より美咲の方が少しだけ背が高い。
「秋山美咲です。よろしくお願いします」
「秋山さんは10年前までこの街に住んでいたそうです。その頃はピアニストを目指していたんですって、でもそれが何故かナースの道に……。ねっ」
そう言って御堂は顔を横に向けて美咲を見た。
「この街にいたのは中学生まででした。高校入学と同時に引っ越しました」
「あらっ、そういことは……、若いのね。やっぱりあたしが一番おばさんね」
ナース達の失笑を買う中、その日の業務が始まった。
「秋山さん、1度院内を案内しておくわ。いらっしゃい」
ナース達が慌ただしくそれぞれの部署へ散っていく中、美咲は御堂に連れられ、渡り廊下近くにあるエレベーターへと歩いていった。
御堂のウェーブの掛かった髪が、歩く度に肩先でフワフワと揺れる。
「最初に院長室に行くわ、急ぎで渡さないといけない書類があるの」
「はい」

院長室はB棟4階にあった。エレベーターを降り、廊下を奥へと歩いていくと、廊下全体を塞ぐような自動ドアがあった。
「この先が院長室よ」
大きな自動ドアが開き、2人は院長室の前にきた。
「チョット待ってて、院長にこの書類を渡してくるから」
彼女は片手に持った書類ファイルを見せた。
「はい」
院長室のドアを2度ノックして御堂がドアを開けた。
「院長、書類をお持ちしました。遅くなって申し訳ありません」
「あらっ、婦長? どうぞ。入って」
中からよく通る涼しげな声が聞こえた。
それから暫く声は聞こえなかったが、御堂が廊下で待つ美咲を中へ呼んだ。
「秋山さん、チョット……。院長に紹介するわ」
「はい」
美咲は恐る恐る、院長室へと足を踏み入れた。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土