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あなたの燃える手で

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Lost Memory

30
「あなたは……、交通事故で記憶を無くした」
「えぇ……」
「その時あなたは、何所に行こうとしていたのか」
「えっ……?」
「あの雨の日、あなたはあたしと待ち合わせをしていたの」
「雨の日? リラと……、待ち合わせ?」
「そうよ。あたしはあなたを呼び出した。あなたとここで一緒に理想の医療を
実現するために。その話を聞いてもらいたかったの。でもあなたは現れなかった。それもそのはず、あなたは待ち合わせた店の1ブロック先で交通事故に遭っていたんだもの」
「……」
「近くの病院に意識のないあなたは運ばれた。でも軽傷で済んだあなたに高額
な薬や高度な治療は必要ない。そう判断されたあなたはまるで追い出されるよ
うにしてここにやってきた。意識のないままね。幸い体に大した怪我もなく体
力も十分にあるあなたは、たまたまアンドロイドの試作機を試そうとしてい
た、うちの研究患者にはピッタリだった」
「……」
「でも、あなたは記憶を失っていた。あなたの病室にあるあのパステル画」
「赤い傘を差した女の子の……?」
「そうよ。事故に遭った時、あなたは赤い傘を差していたの。記憶をたぐる何かの手がかりになればと思って飾ってみたのよ」
「でも……、でもあたしの記憶はちゃんと戻ったわ。もう全部思い出したの。そうでしょ。事故の時の記憶なんか無くても……」
「ううん、戻ってないわ。とっても大切な記憶が……」
「とっても大切な記憶?」
「そうよ。大切な記憶。あなたはあたしを愛してくれていたの。勿論、あ
たしは今でもあなたのことを愛している」
「あたしが、あなたを愛して……いた?」

メイの戻ったと思われた記憶。しかし胸の奥深くに仕舞い込んだリラを愛して
いた記憶は戻ってはいなかった。

「嘘よ。あたしがあなたを愛していたなんて、全部作り事だわ」
「本当よ、あたし達は愛し合っていたの。見て、あたしとあなたの写真よ」
リラはポケットから一枚の写真を撮りだした。
それは立ったまま抱き合い、キスをする自分たちを鏡に映した写真だった。
メイが片手に持った小型カメラが、鏡に向けられている。
「嘘よ、嘘だわ。こんな写真。どうせ合成でしょ」
「本当よ、本当なの。信じてメイ! あなたの指もあたしの感じるトコロを覚えていたじゃない」
「そんなの偶然よ。それなら証拠を、証拠を見せて……」
「証拠はコレよ」
リラは床に倒れたまま動かない、今はもうアンドロイドにしか見えないイリメ
ラを見た。
「どうして? どうしてコレが証拠なの?」
「イリメラ。I・R・I・M・E・R・A」
「えっ?……何?」
「IRIMERAは、MEIとRIRAのアナグラムなの」
「アナグラム……、あっ……」
メイは頭の中での ”MEI” の3文字と ”RIRA” の4文字。その合計7文字
のアルファベットを組み替えた。すると確かにIRIMERAになる。
「本当はあなたと一緒に作りたかったアンドロイド。だからあたし達の名前を
一つにした名前を付けた」
「そんな……、あたしは……」

リラの本心を、その想いを、メイは突きつけられたような気がした。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土