囁く家の眠れる少女
2
「催眠術なら眠ってる間に治っちゃいそうでしょう。ねっ、先生……」
そう言って美穂を見つめたあんず。大きな瞳に少し尖らせた唇。それらは薔
薇の蕾のように可憐だった。
あぁ、可愛い、なんて可愛いの……。濡れた瞳にその唇。柔らかいんでしょ
うね。唇だけじゃない。身体中どこを触っても柔らかそう……。触ってみた
いわ。うぅん、触るだけじゃダメ。それだけじゃモノ足りないわ。
その時美穂の胸に、悪戯心というにはあまりに淫らな炎が灯った。
「それじゃ森崎さん。うぅ~ん、なんかしっくりこないわねぇ」
「えっ……?」
「ねぇ、 "あんずちゃん" って呼んでもいい?」
「もちろんですぅ…あたしもそっちの方がいいですぅー」
それから10分程いくつか問診をすると、美穂は椅子から立ち上がった。
「それじゃあんずちゃん。そっちのソファに座って」
「はぁ~い」
二人はソファへ場所を移すと並んで座った。これはあんずに限らず、患者を
リラックスさせるために美穂がよく取る方法だった。
「それじゃあんずちゃん、催眠術かけちゃうわよぉ~」
「もぅ~、先生やだぁ~」
「うっふふっ。ごめんなさい。でも催眠術は掛かりやすい人と、そうでない
人がいるから、まずはリラックスして……」
「えぇ~、でもなんかドキドキしちゃう」
あんずは小さな手を二つ並べて胸の前で合わせた。
「大丈夫よ。別に注射されるワケじゃないし……。医療器具も使わないわ
よ。使うのはコレだけ」
すると美穂は、胸のポケットから何かを摘むようにして持ち上げた。
摘んだのはネックレスのような20センチ程の細い鎖。その先にはダイヤモン
ドのようなカットをした、涙型のガラス玉が付いていた。その中にはシャン
デリアのような無数の光芒が見える。
「それはぁ?」
あんずは興味津々といった眼差しでソレを見つめた。
「コレが催眠術の道具よ。さっ、それじゃあんずちゃん。コレをよく見て」
「は・い……」
訳もわからず、あんずは言われるままにガラス玉を見つめた。
「コレだけをずっと見つめて。コレ以外目に入らないくらいよく見るの」
今度は黙って頷いた。
いつしかガラス玉はその場で回転していた。やがて回転が止まると、鎖の捩
れを戻すように反対に回り始めた。
あんずはそんなガラス玉を見つめ続ける。
そしていつしか、深い深い靄に包まれていくのだった。
「だんだん眠くなってくるわ。そしてあなたはその睡魔に勝てない。そう、
眠ってしまうの。聞こえるのはあたしの声だけ。わかるわね?」
杏の首が "コクリ" と頷く。
ガラス玉が止まる頃、あんずは力無くソファにもたれ掛かり、その首はガッ
クリと俯いていた。
「まぁ、この子。思ってた以上に催眠に掛かりやすいわ」
本当に深く催眠に掛かっている。コレならあたしの思い通りに動くでしょう
ね、そう、生きた人形のように……。
「催眠術なら眠ってる間に治っちゃいそうでしょう。ねっ、先生……」
そう言って美穂を見つめたあんず。大きな瞳に少し尖らせた唇。それらは薔
薇の蕾のように可憐だった。
あぁ、可愛い、なんて可愛いの……。濡れた瞳にその唇。柔らかいんでしょ
うね。唇だけじゃない。身体中どこを触っても柔らかそう……。触ってみた
いわ。うぅん、触るだけじゃダメ。それだけじゃモノ足りないわ。
その時美穂の胸に、悪戯心というにはあまりに淫らな炎が灯った。
「それじゃ森崎さん。うぅ~ん、なんかしっくりこないわねぇ」
「えっ……?」
「ねぇ、 "あんずちゃん" って呼んでもいい?」
「もちろんですぅ…あたしもそっちの方がいいですぅー」
それから10分程いくつか問診をすると、美穂は椅子から立ち上がった。
「それじゃあんずちゃん。そっちのソファに座って」
「はぁ~い」
二人はソファへ場所を移すと並んで座った。これはあんずに限らず、患者を
リラックスさせるために美穂がよく取る方法だった。
「それじゃあんずちゃん、催眠術かけちゃうわよぉ~」
「もぅ~、先生やだぁ~」
「うっふふっ。ごめんなさい。でも催眠術は掛かりやすい人と、そうでない
人がいるから、まずはリラックスして……」
「えぇ~、でもなんかドキドキしちゃう」
あんずは小さな手を二つ並べて胸の前で合わせた。
「大丈夫よ。別に注射されるワケじゃないし……。医療器具も使わないわ
よ。使うのはコレだけ」
すると美穂は、胸のポケットから何かを摘むようにして持ち上げた。
摘んだのはネックレスのような20センチ程の細い鎖。その先にはダイヤモン
ドのようなカットをした、涙型のガラス玉が付いていた。その中にはシャン
デリアのような無数の光芒が見える。
「それはぁ?」
あんずは興味津々といった眼差しでソレを見つめた。
「コレが催眠術の道具よ。さっ、それじゃあんずちゃん。コレをよく見て」
「は・い……」
訳もわからず、あんずは言われるままにガラス玉を見つめた。
「コレだけをずっと見つめて。コレ以外目に入らないくらいよく見るの」
今度は黙って頷いた。
いつしかガラス玉はその場で回転していた。やがて回転が止まると、鎖の捩
れを戻すように反対に回り始めた。
あんずはそんなガラス玉を見つめ続ける。
そしていつしか、深い深い靄に包まれていくのだった。
「だんだん眠くなってくるわ。そしてあなたはその睡魔に勝てない。そう、
眠ってしまうの。聞こえるのはあたしの声だけ。わかるわね?」
杏の首が "コクリ" と頷く。
ガラス玉が止まる頃、あんずは力無くソファにもたれ掛かり、その首はガッ
クリと俯いていた。
「まぁ、この子。思ってた以上に催眠に掛かりやすいわ」
本当に深く催眠に掛かっている。コレならあたしの思い通りに動くでしょう
ね、そう、生きた人形のように……。