2ntブログ

あなたの燃える手で

Welcome to my blog

囁く家の眠れる少女


囁く家の
れる少女


PROLOGU 
その涙型のガラス玉には、ダイヤモンドのようなラウンドブリリアントカッ
トが施されていた。20センチ程の細い鎖の先にぶら下がったそれは、細い中
指と親指で摘まれ、時計回りにクルクルと回転していた。やがて回転が止ま
ると、鎖の捩れを戻すように反対に回り始めた。



「あぁー、可愛いわぁ、あんず。あんずちゃん。どうしてそんなに可愛い
の? 一目でいいからあなたに会いたい。でもね、またコンサートには行け
そうもないの。ごめんねぇー」
花町催眠クリニックの催眠療法師『花町美穂』は、満面の笑みで大きなポス
ターの前に立つと、神に祈りを捧げるように両手を組んだ。

人気絶頂のアイドルグループ、『アマテラスと十二人の使徒』。
そのリーダーである『森崎あんず』は、不眠症で悩んでいた。
森崎あんずと言えば、今や国民的人気絶頂アイドル真っ只中の人気者だ。
毎回ステージで「あたしたちぃ~、アマテラスとぉ~、十二人の使徒ぉ~」
とか、「世の中をぉ、明るく照らしちゃいまぁ~す」なんて言ってる、あの
彼女だ。それが、あれだけ歌って踊って疲れているハズなのに、どうして眠
れないのか……?
メンバーからも一度診てもらった方がいいと勧められ、あんずはネットで見
つけたこのクリニックを訪れたのだった。

花町催眠クリニックは、二階建ての一般住宅を思わせる建物だった。
しかしさすがに一般住宅とは異なり、玄関を上がってすぐ受付、続いて待合
室、その向かいに診察室があり、奥には事務所があるようだった。
玄関のすぐ横からは、二階に上がる階段が踊り場まで見えていた。
ここは事務所からも遠くない場所にあり、利便性の良さが選択理由だった。

スリッパを履いて待合室で待つこと10分。あんずは名前を呼ばれ、診察室へ
と入った。診察室と言っても通常の診察室とは異なり、ソファとテーブル、それにパソコンのモニターの乗った机が隅にあるだけだ。
あんずは診察室で催眠療法師、花町美穂と向かい合った。

「先生、あたし、全然眠れないんです」
「ねぇ、その前にチョットいい?」
「はい……?」
「あなた、ねぇあなた……。この "あんず" っていう名前、それにその顔。
もしかして、もしかしてあのグループの、リーダーの……?」
「あぁ、はい。森崎あんずです。アイドルグループ、アマテラスと十二人の
使徒でリーダーやらせて貰ってます」
「やっぱり、やっぱりねぇ、一目見た時からそうかなぁ~って、思ってたの
よねぇ。だって可愛さが尋常じゃないもの」
「もう先生ぇ~」
「後でサイン頂戴ね」
「いいですよぉ~、全然大丈夫です」
あんずは満面の笑みで答えた。
「ごめんなさいね、患者さんにこんな。でもねっ、あんずちゃんはあたしの
推しなのよぉ。誰になんと言われようと推しなの、ホントよ。あぁ、ごめん
なさい。ホントにごめんなさいね」
「いえっ、そんな。あたしも嬉しいです。そんな先生に診て貰えて」
「えぇっと、それで、眠れないのね……」
「はい。体は疲れてるハズなんですけど……。っていうか疲れてるんです」
「なのに眠れない」
「はい」
「薬は? 睡眠導入剤とか、ナニか飲んでる?」
「飲んでません。なんか薬とか怖くて……、それにぃ……」
「それにぃ?」
「催眠術なら、眠ってる間に治っちゃいそうだから……。大丈夫ですよね? 
先生なら……」

そう言って美穂を見つめたあんず。大きな瞳をウルウルと濡らし、少し尖ら
せたその唇は、薔薇の蕾のように可憐だった。


Comments 0

Leave a reply

About this site
女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
About me
誠に恐縮ですが、不適切と思われるコメント・トラックバック、または商業サイトは、削除させていただくことがあります。

更新日:日・水・土