白い魔女 8
6
中学を卒業すると、せっちゃんは他県の寮がある高校へ移った。だからもう
せっちゃんとは中々会えないだろう。
あたしはと言えば、『夢の森女子高等学校』通称『夢女』へと進学した。
『夢の森』という駅のバスターミナルからバスでいく女子高で、自分で言う
のもなんだけど、知らぬ人はいない名門校であることを付け加えておく。
そんな女子校生活も軌道に乗り始めたG.W直前の雨の日、あたしは帰り道で
偶然せっちゃんのママに会った。
それは駅前のバスターミナルで、バスを降りた時のコトだった。
「雪ちゃん、雪ちゃん……」
突然聞こえたあたしを呼ぶ声に、あたしは辺りを見回した。すると駅へ向か
う傘の流れに逆らうように、その場に立ち止まった赤い傘を見つけた。それ
は久しぶりに見るせっちゃんのママ、『近藤千草』さんだった。
四十間近なのかそれとももう越えたのか。とにかくそれ相応に見える人だ。
中肉中背のどちらかと言えば痩せ型か。胸もそれほど大きくはない。でも腰
から足にかけては引き締まり、スタスタと小気味よく歩く。
買い物帰りだろうか、それにしては荷物が少ない気もする。でもあたしもお
ばさんもこの街には住んではいない。ココから車か電車で帰るつもりだった
のは間違いないと思われる。
あたしは赤い傘を背景に、微笑みかけるおばさんへと歩いた。
「お久しぶりですぅ」
「ホント、久しぶりねぇ。中学の時のはよく遊びにきてくれて……。なんだ
か懐かしいわぁ」
「いつも美味しいお菓子やケーキを、ご馳走様でした」
「もう、そんな昔のコトぉ……。ねぇ雪ちゃん、そこの幹線道路渡ったとこ
ろに、美味しいケーキ出すカフェがあるんだけど、行かない? ほらっ、あ
の商店街にあるんだけど……」
おばさんは幹線道路の向こうに見える、商店街の入り口を指差した。
「へぇ~、行きます。行きますぅ……」
あたし達は駅を背にすると、その商店街に向かって歩き始めた。
「ねぇ、雪ちゃん。あたしの傘に入らない?」
その時にはもう、雨はかなり小降りになっていて、二人で傘を刺していると
話もしづらいもんね。そう思ったあたしは傘を畳むと、おばさんの傘の下に
入った。
「うっふふっ。相合傘ね……。なんか嬉しいわ」
「おばさん。せっちゃん元気ですかぁ?」
「えぇ、電話で話すだけだけど、どうにか元気でやってるみたいよ」
「そうですか」
それを聞いてちょっと安心する。
ふと前を見ると、幹線道路の赤信号は赤だった。立ち止まると、ボツボツと
傘を叩く雨音が大きくなってきた。
「あらっ、また降ってきちゃったわね」
おばさんはあたしが濡れないように、肩を抱くと自分の方に引き寄せた。
「雪ちゃんもすっかり綺麗になって……。背も伸びたんじゃない?」
「えぇ、チョットだけ……」
「すっかり女らしい体つきになって……。おばさんドキドキしちゃうわ」
そう言ってあたしを強く引き寄せるから、体が "ギュッ" と密着した。
「彼氏は? できた?」
「で、できません。っていうか、ほらっ、うち」女子校ですし……」
そんなコトを言ってお茶を濁していると、目の前の信号が青になった。
横断歩道を渡り始めても、体は密着したままだった。
中学を卒業すると、せっちゃんは他県の寮がある高校へ移った。だからもう
せっちゃんとは中々会えないだろう。
あたしはと言えば、『夢の森女子高等学校』通称『夢女』へと進学した。
『夢の森』という駅のバスターミナルからバスでいく女子高で、自分で言う
のもなんだけど、知らぬ人はいない名門校であることを付け加えておく。
そんな女子校生活も軌道に乗り始めたG.W直前の雨の日、あたしは帰り道で
偶然せっちゃんのママに会った。
それは駅前のバスターミナルで、バスを降りた時のコトだった。
「雪ちゃん、雪ちゃん……」
突然聞こえたあたしを呼ぶ声に、あたしは辺りを見回した。すると駅へ向か
う傘の流れに逆らうように、その場に立ち止まった赤い傘を見つけた。それ
は久しぶりに見るせっちゃんのママ、『近藤千草』さんだった。
四十間近なのかそれとももう越えたのか。とにかくそれ相応に見える人だ。
中肉中背のどちらかと言えば痩せ型か。胸もそれほど大きくはない。でも腰
から足にかけては引き締まり、スタスタと小気味よく歩く。
買い物帰りだろうか、それにしては荷物が少ない気もする。でもあたしもお
ばさんもこの街には住んではいない。ココから車か電車で帰るつもりだった
のは間違いないと思われる。
あたしは赤い傘を背景に、微笑みかけるおばさんへと歩いた。
「お久しぶりですぅ」
「ホント、久しぶりねぇ。中学の時のはよく遊びにきてくれて……。なんだ
か懐かしいわぁ」
「いつも美味しいお菓子やケーキを、ご馳走様でした」
「もう、そんな昔のコトぉ……。ねぇ雪ちゃん、そこの幹線道路渡ったとこ
ろに、美味しいケーキ出すカフェがあるんだけど、行かない? ほらっ、あ
の商店街にあるんだけど……」
おばさんは幹線道路の向こうに見える、商店街の入り口を指差した。
「へぇ~、行きます。行きますぅ……」
あたし達は駅を背にすると、その商店街に向かって歩き始めた。
「ねぇ、雪ちゃん。あたしの傘に入らない?」
その時にはもう、雨はかなり小降りになっていて、二人で傘を刺していると
話もしづらいもんね。そう思ったあたしは傘を畳むと、おばさんの傘の下に
入った。
「うっふふっ。相合傘ね……。なんか嬉しいわ」
「おばさん。せっちゃん元気ですかぁ?」
「えぇ、電話で話すだけだけど、どうにか元気でやってるみたいよ」
「そうですか」
それを聞いてちょっと安心する。
ふと前を見ると、幹線道路の赤信号は赤だった。立ち止まると、ボツボツと
傘を叩く雨音が大きくなってきた。
「あらっ、また降ってきちゃったわね」
おばさんはあたしが濡れないように、肩を抱くと自分の方に引き寄せた。
「雪ちゃんもすっかり綺麗になって……。背も伸びたんじゃない?」
「えぇ、チョットだけ……」
「すっかり女らしい体つきになって……。おばさんドキドキしちゃうわ」
そう言ってあたしを強く引き寄せるから、体が "ギュッ" と密着した。
「彼氏は? できた?」
「で、できません。っていうか、ほらっ、うち」女子校ですし……」
そんなコトを言ってお茶を濁していると、目の前の信号が青になった。
横断歩道を渡り始めても、体は密着したままだった。