眠れない羊たち
第7話:密会 1
真紀は島に到着した翌日。朝食を部屋で済ますと1階へと降りた。
女将に『めかくし様』のコトを聞こうと思ったのだ。島の案内では判らないこ
とを、地元の人なら何か知っているかも知れないと思ったからだ。
女将はすぐに見つかった。しかし何故か今日は、外出用の和服姿だ。
「めかくし様ですかぁ。まぁ、確かにこの島に、あるにはあるんですけどね」
「本当ですか?」
「えぇ、でもねぇ。残念ですけど見られませんよ」
「えっ……? どうしてですか?」
「めかくし様は、ここからもっと裏、南にいったところにある『蜂天寺』って
いうお寺の『奥の院』ていう所に安置されてるんですけどね」
「蜂天寺の……、奥の院」
そういえば、島の案内にもそんな寺が載っていたことを、真紀は思い出した。
「でも奥の院は普段は立ち入り禁止になってましてね。決まった日にしか入れ
ませんから、行っても見れませんよ」
「なぁ~んだ、せっかくめかくし様の秘密を暴いてやろうと思っていたのに」
「取り敢えず温泉にでも入って、ゆっくりなされたらどうです」
「そうですね、1週間あるし。取り敢えず温泉もいいかも……」
「ホントはお背中流して差し上げたいんですけど……」
「もう、女将さんったらぁ。そんなコト言ってホントは……」
「あらっ、そんな意味じゃ……。でも今日はチョット用事があって、出掛けな
ければなりませんから……」
「それでお着物なんですね。それじゃ1人でお風呂いただきまぁ~す」
「うふふっ、それではあたしはこれで」
百合子は一礼すると、クルリと背を向けて廊下の奥を曲がっていった。
「沙織、チョット庄屋さんまで行ってくるから、留守をお願いね」
「はい。わかりましたぁ」
ガラガラと戸を開ける音が聞こえ、女将の履く草履の音が遠ざかっていった。
風呂場では、あの女性客が湯を使う音が聞こえる。
沙織は女将の部屋へ行くと、もう今は古くなったPCと向かい合った。
「こんにちは、南ですぅ」
庄屋の玄関に入ると、百合子は奥へ声を掛けた。すると長い廊下の奥から、村
の庄屋である『連城時江』が、衣擦れの音と共に現れた。
百合子と同い年の時江だが、着物を着慣れたその姿は、百合子よりは落ち着き
があり、奥ゆかしさも感じられた。
「あらっ、百合子。いらっしゃい」
時江がネットリとした眼差しで百合子を見た。キツネ顔で日本風の美人の時江
だが、その口角が上がった唇はどこかイヤラシく、わずかに微笑めばかなりの
好色さを感じた。
「実はね時江。いい話があるのよ……」
「いい話って、新しい『贄』でも見つかったの?」
「しっ。声が大きいわよ」
百合子は指を1本唇前で立てていった。
「大丈夫よ。誰にも聞こえるわけないじゃない」
確かに村の庄屋だけあって、その土地は約2千坪はあった。その土地の中央に
平屋の重厚な和風建築が建っている。
「あなたが来たっていうことはゆっくりできるんでしょう。話はあそこでゆっ
くりと聞くわ。いつもの場所でね」
時江は靴を履くと裏庭に回った。
百合子も勝手知ったる庭のように時江の後ろを歩いていく。
そして2人は、母屋から離れた蔵の前で立ち止まった。
真紀は島に到着した翌日。朝食を部屋で済ますと1階へと降りた。
女将に『めかくし様』のコトを聞こうと思ったのだ。島の案内では判らないこ
とを、地元の人なら何か知っているかも知れないと思ったからだ。
女将はすぐに見つかった。しかし何故か今日は、外出用の和服姿だ。
「めかくし様ですかぁ。まぁ、確かにこの島に、あるにはあるんですけどね」
「本当ですか?」
「えぇ、でもねぇ。残念ですけど見られませんよ」
「えっ……? どうしてですか?」
「めかくし様は、ここからもっと裏、南にいったところにある『蜂天寺』って
いうお寺の『奥の院』ていう所に安置されてるんですけどね」
「蜂天寺の……、奥の院」
そういえば、島の案内にもそんな寺が載っていたことを、真紀は思い出した。
「でも奥の院は普段は立ち入り禁止になってましてね。決まった日にしか入れ
ませんから、行っても見れませんよ」
「なぁ~んだ、せっかくめかくし様の秘密を暴いてやろうと思っていたのに」
「取り敢えず温泉にでも入って、ゆっくりなされたらどうです」
「そうですね、1週間あるし。取り敢えず温泉もいいかも……」
「ホントはお背中流して差し上げたいんですけど……」
「もう、女将さんったらぁ。そんなコト言ってホントは……」
「あらっ、そんな意味じゃ……。でも今日はチョット用事があって、出掛けな
ければなりませんから……」
「それでお着物なんですね。それじゃ1人でお風呂いただきまぁ~す」
「うふふっ、それではあたしはこれで」
百合子は一礼すると、クルリと背を向けて廊下の奥を曲がっていった。
「沙織、チョット庄屋さんまで行ってくるから、留守をお願いね」
「はい。わかりましたぁ」
ガラガラと戸を開ける音が聞こえ、女将の履く草履の音が遠ざかっていった。
風呂場では、あの女性客が湯を使う音が聞こえる。
沙織は女将の部屋へ行くと、もう今は古くなったPCと向かい合った。
「こんにちは、南ですぅ」
庄屋の玄関に入ると、百合子は奥へ声を掛けた。すると長い廊下の奥から、村
の庄屋である『連城時江』が、衣擦れの音と共に現れた。
百合子と同い年の時江だが、着物を着慣れたその姿は、百合子よりは落ち着き
があり、奥ゆかしさも感じられた。
「あらっ、百合子。いらっしゃい」
時江がネットリとした眼差しで百合子を見た。キツネ顔で日本風の美人の時江
だが、その口角が上がった唇はどこかイヤラシく、わずかに微笑めばかなりの
好色さを感じた。
「実はね時江。いい話があるのよ……」
「いい話って、新しい『贄』でも見つかったの?」
「しっ。声が大きいわよ」
百合子は指を1本唇前で立てていった。
「大丈夫よ。誰にも聞こえるわけないじゃない」
確かに村の庄屋だけあって、その土地は約2千坪はあった。その土地の中央に
平屋の重厚な和風建築が建っている。
「あなたが来たっていうことはゆっくりできるんでしょう。話はあそこでゆっ
くりと聞くわ。いつもの場所でね」
時江は靴を履くと裏庭に回った。
百合子も勝手知ったる庭のように時江の後ろを歩いていく。
そして2人は、母屋から離れた蔵の前で立ち止まった。