2ntブログ

あなたの燃える手で

Welcome to my blog

眠れない羊たち

第2話:女蜂島 2
朝、目が覚めると船は上下に大きく揺れていた。
船窓からは、海面から生まれる無数の波頭を、東風が根こそぎ吹き飛ばしてい
くのが見える。そしてその向こうに見える目蜂島はまだ遙かに遠い。島が目の
前に迫るには、まだ時間がかかりそうだ。
海はかなり荒れているが、港には本当に予定通りに着くだろうか。まさか遭難
ということはないだろうが……。狭い船室で、真紀はふと不安になった。

それから真紀は、船の揺れに任せて眠ってしまった。再び目覚めたとき、目蜂
島は目の前に迫っていた。これならあと30もかからずに港に着くだろう。
真紀は時計を見ると荷物をまとめ、下船の用意を整えた。


連絡船が港に着くと、真紀は大きなバッグを持ってデッキに出た。
揺れる桟橋を歩く真紀の背中を、せかすように東風が押す。
重いバッグを肩に掛け直し、真紀は大地を踏みしめるように港に降り立った。
波から解放されても、体にはまだ呼吸するような揺れの感覚が残っている。
「さてとっ、先ずは宿ね……」
真紀はバッグから島の案内を出すと、地図のページを広げた。
その地図の上側5分の1、つまり北側には本州の一部分が描かれており、真紀
の乗った連絡船の航路が、点線となってこの島の港に繋がっていた。
本州側である島の北側が「表」、南側が「裏」と呼ばれているのも、なんとな
く判る気がした。
次のページには、島内の地図が拡大して載っている。真紀は今自分がいる港を
指差し、予約をしてある旅館『海百合荘』までの道のりを指で辿った。
「ふぅん……。ちょっと遠いけど、別に歩いていける距離ねぇ。歩いちゃおう
か、時間もあるし」
真紀はミステリーハンターの興奮からか、普段なら絶対に歩かない距離を、島
の裏へと向かって意気揚々として歩き出した。

「あれっ? なぁに? この甘い香りは……」
途中、丘を登る真紀の鼻を、東風に混じって何やら甘い香りがくすぐった。ど
うやらそれは、丘に沿って咲く白い花から匂ってくるようだ。
「これって、あの花の……、香り?」
丘を登りきった真紀は、そこに無数に咲くの白い百合の花を見た。
「これが蜜百合ね」
それは丘一面に咲き乱れ、まるで丘を征服したかのように咲き誇っている。
白い地平線となった蜜百合は、東風と共に首を振り、真紀の元へと白いウェー
ブを送っていた。
「それにしても、凄い数ね」
真紀はバッグのポケットから小さな赤いデジカメ出すと、花に覆われた白い丘
を数枚撮った。

知らない場所、初めての場所を歩くというのは、時間が早く過ぎるものなのだ
ろうか。
蜜百合の丘を下り暫く歩くと、まだ20分はかかるだろうと思っていた海百合
荘が、道の先に見えてきた。
「あっ、あった海百合荘。旅館っていうより民宿っていう感じねぇ……」
それは決して大きいとは言えない。どちらかといえば、こぢんまりとした佇ま
いの建物だった。
海までは歩いても2~3分だろう。波音の聞こえるその場所は、回りに民家も
ない落ち着けそうなロケーションだ。部屋によっては、いやどの部屋からも
きっと海が見えるに違いない。
真紀はそんな期待を胸に、海百合荘の戸を開けた。

そんな真紀を、2階から見下ろす目があることに、彼女は気が付かなかった。

Comments 0

Leave a reply

About this site
女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
About me
誠に恐縮ですが、不適切と思われるコメント・トラックバック、または商業サイトは、削除させていただくことがあります。

更新日:日・水・土