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あなたの燃える手で

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白い魔女

 9
『アマデウス』を出たゆかりは真っ直ぐ駅に向かい、言われたとおり東口に出た。
洗練された西口の雰囲気とは違い、こちら側は昔ながらの落ち着きを感じた。おそらくこの街で生まれ育った人も多いのではないか。マンションやビルがあるわけでもなく、響子のメモのとおり大銀杏はすぐに見つかった。
あの銀杏の下の白い建物が、おそらく病院だろうとゆかりは思った。
メモには線路沿いを5分ほど歩くと踏切があり、そこを右折してもう5分ほど歩いた所が病院の正面になっている。
少し早足で歩くゆかりの横を、急行列車が風を巻いて走り抜けた。

駅前から白く見えた病院は、近づくにつれ薄いクリーム色へと変わっていった。
手前に入口のある2階建ての病棟、その奥に4階建ての病棟が見える。
この病院のシンボル的存在である大銀杏は、その2棟の間に立っていた。
ゆかりは『夢の森病院』の外来受付に到着の旨を告げた。
「今お呼びしますので、そこで少しお待ち下さい」
ゆかりは一般患者に混ざって御堂を待った。生暖かい空気に、病院独特の匂いが鼻を突く。御堂を待つ間に響子のアドレスを自分の携帯に入れ、テスト替わりに短いメールを打ってみた。

ーー無事に病院に着きました。ありがとう。またメールしてもいいかしら?ーー

送信ボタンを押すとメールは問題なく送られた。どうやらアドレスは間違っていなかったようだ。ゆかりが携帯をバックにしまった時、水色のナース服がゆかりの前で立ち止まった。
「渡辺ゆかりさんですか?」
「はい」
ゆかりは半ばあわてて立ち上がった。
「御堂です」
「どうもはじめまして。よろしくお願いします」
「こちらこそ、ゆかりさん」
いきなり名前で呼ばれ戸惑った様子のゆかりを余所に、御堂は続けた。
「それでは荷物を持ってこちらにどうぞ」
御堂はゆかりに背を向けると、受付から奥へ延びる通路を通り、診察を待つ患者たちの前を歩いていった。途中小さな売店が院内と不釣り合いな雰囲気を醸していた。
仕事柄だろうか、御堂の歩くペースはかなり速い。ゆかりは不慣れな院内で置いて行かれないように、彼女について行った。
ナースに案内されて歩く彼女を、誰一人として気にとめる者はいなかった。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土