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あなたの燃える手で

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白い魔女

 6
大きなエンジン音を響かせて、ターミナルにバスが2台続けて入ってきた。バスはゆかりの目の前を通り過ぎ、大きく弧を描いてターミナルの中央に止まった。その動きを追っていたゆかりの目に、1軒の喫茶店が目に入った。
その喫茶店はターミナル続きの幹線道路の信号を渡ったところにあり、ガラス張りの壁からは白と黒に統一された店内が見て取れた。何となく雰囲気のいいその店に惹かれ、ゆかりは横断歩道を渡った。
『アマデウス』と書かれた看板を横目に中に入った。控えめにクラッシックが流れ、テーブルと椅子はセットで白と黒の2種類のものに分かれていた。どちらのテーブルにも赤い灰皿が置いてある。ゆかりはコートを脱ぐと、黒いテーブルに壁を背にして座わった。バッグからタバコと携帯を取りだしテーブルに置く。
ハーフのような顔立ちをした女性が、メニューと水を持ってゆかりに近づいてきた。
「いらっしゃいませ」
「ブレンド下さい」
「はい、ブレンドですね。ブレンド一つお願い」
「はぁ~い」
女性は店の奥に声を掛けた。彼女は38歳のゆかりと同い年くらいだろうか、それに比べ店の奥から聞こえてきた声は、女子高生のような若々しい声だった。
たばこに火を付け、大きく吸い込んだ煙が溜息混じりに吐き出された。
店内に時計は無い。携帯で時間を確かめると2時10分だった。言われた時間は午後3時。それまであと50分近くある。
香ばしい香りが漂ってきた。
「響子ちゃん。お客様にブレンドお願い」
「あっ、はぁ~い」
タバコを吸い終わる頃、響子と呼ばれた若い女の子がブレンドを運んできた。
「お待たせしました。ブレンドです」
彼女はゆかりのすぐ横まで来て、赤いコーヒーカップとミルクの入った小瓶を置いた。チェックのミニスカートから伸びた綺麗な脚が、ゆかりの目の前まで迫ってきた。その気がないでもないゆかりはその白い太腿に目が止まった。
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう。高校生?」
「いえっ、大学生です。そこの女子大に通ってます」
「あっ、そうなの」
彼女はゆかりに微笑むとカップと伝票を置き、店の奥に消えていった。
自分にもあんな娘がいたら、年齢から言えば無い話ではない。しかしゆかりは子宝には恵まれなかった。夫が急死した今、その方が良かったのかもしれない。
神様はよく見ているものだと、今更ながらに思う。
カップから静かに立ちのぼる湯気を見ながら、2本目のタバコに火を付けた。

ゆかりの他に客は見あたらない。携帯で話すにはちょうど良かった。
携帯のリダイヤルボタンを押し耳に当てた。呼び出し音の後相手が出た。
「はい。御堂です」
カップから立ちのぼる湯気は消えていた。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土