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あなたの燃える手で

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彼女の秘密

10
ワイドショーで見たラブホテルは、確か表通りから1本裏に入った所、繁華街の近くだったはずだ。辺りを見回しながら歩くこと20分。あたしはそのラブホテルの前に立った。
正面には太い柱とガラス製の大きな扉がある。しかしTVに映っていたのはホテルの裏口で、正面に比べると随分と小さい。自動扉の両側に大きな観葉植物が置かれているが、手入れが悪いのか根元は雑草に覆われていた。

ココで女はタクシーを待つ間、しゃがんで何をしていたのか?
あたしは辺りを見回した。その時あたしの後で猫の鳴き声がした。
「いた! やっぱり……」
その女はココで野良猫にエサを与えていたのだ。しゃがんで……。
あたしは、植木の雑草の中を覗き込んだ。
そこにあたしは小さなキャットフードを見つけた。

 ” 家に着くと静江さんは持っていたバッグからキャットフードを出し、
 エマニエルという白い猫にそれを与えた。
 (このキャットフード珍しいでしょ。日本には売ってないのよ。
  わざわざアメリカから取り寄せているの。さぁ、おいでエマニエル)”

もう何度も聞いた彼女のセリフだった。
彼女はいつも ”持っていたバッグから” キャットフードを出していた。
事件のあった日も、彼女のバッグにはこのフードが入っていただろう。
静江さんはあたしにはなくてはならい人。彼女を失うわけにはいかない。
でも、それ以上に見逃すことは出来ない。これは殺人事件だ。あたしは電話ボックスを見つけると、ハンカチ越しに受話器を持った。
「あっ、もしもし……」
「はいっ! 新宿署です……」

思えば短い付き合いだったかもしれない。
最初は信じられなかった。ううん、信じたくなかった。
こんなコトがなければ、あたし達は上手くやっていけたと思う……。

でも……、アナタが悪いのよ、静江さん。

あたしはアナタの秘密に気が付いてしまった。

アナタはあたしの秘密に気が付かなかった。
いつもあのカフェを出ると鳴る、この携帯電話に……。

あたしは電話ボックスを出た。すると待っていたように携帯が着信を告げた。
「もしもし、……あらぁ、あたしまだ新宿なの。……えっ? アップルパイ?嬉しいホント? そういうコトなら行くわ。 ……それじゃね」
あたしは携帯をバッグに仕舞うと、炎天下の新宿を駅へと歩いた。

エピローグ
『アマデウス』でいつもの場所に座わり、読みかけのミステリーを開く。
中途半端な時間のせいか、客はあたしだけだった。
あたしの前には、冷たいコーヒーと食べかけのアップルパイがあった。
ボーイッシュな女の子が伝票を持ってあたしのテーブルの横に来た。
彼女はワザとあたしの脚の近くに伝票を床に落とすと、背を向けお尻突き出しながらワザとゆっくりと立ち上がった。あたしはスグ横にある彼女の綺麗なツルツルとした太股と、特にショーツの真ん中に中指を当て、その感触をわずかな時間楽しむコトが出来た。

1時間ほど読書をしてを過ごすと、あたしは彼女のいるレジに向かった。
「えっと、アイスコーヒーとアップルパイで720円になります」
あたしは料金と伝票を彼女に渡しながらウインクをした。
(ありがとう、響子ちゃん。アップルパイ奢ってくれて……)
会計を済ますと出口の扉を開けた。
「ありがとうございましたぁ~」

10分後、あたしの携帯が着信を告げた。
「もしもし、いいわよぉ。そうねぇ、お店じゃママの目があって話せないものねぇ。えっ? この間まで一緒にお茶してた人? 彼女遠いところへ引っ越しちゃったの。うん、それじゃ今夜。朝までタップリと、ねっ 響子ちゃん」
あたしは携帯を切ると、バッグに仕舞った。

見上げる青空から、真夏の太陽が容赦なく照りつけていた。

 ー END ー

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土