白百合忍法帳
(慶安四年 八月二十日)
深夜の江戸に蒼い月が輝いている。
三人のくノ一達は薩摩屋敷近くの川沿いを歩いていた。
暫く歩くと川沿いに繋がれた、屋形船が見えてきた。
三人は誰ともなく屋形船に乗り込んだ。
「これで全て終わったねぇ、碧、柘榴」
紅蜂が優しく二人に微笑んだ。
「まさか四人いたとはねぇ、ちょっと驚いたよ」
「何だかあたしばっかり迷惑かけちゃったみたいで……」
まだ薄くアザの残る腕を柘榴が見つめた。
「そんなことないよ、柘榴」
「でも……」
「そうかい、それじゃちょっとお仕置きでもしようか、ねぇ碧」
「そうだねぇ、それにはここはおあつらえ向きだし……」
「えっ? ちょっと二人とも冗談は……」
柘榴の眉間を紅蜂の針が貫いた。
その途端、柘榴は二人の人形となった。
「さぁ、それじゃお仕置きしようかねぇ、柘榴」
そう言って、頭の紅珊瑚のかんざしを抜いた。
「朝までじっくりと……、虐めてあげるからね」
碧が一房の髪を摘んだ、その先端はまるで筆のようだった。
「ここに針を刺して、うんと感じるようにしてあげるからね」
紅蜂は柘榴の脚を大きく拡げると、新たに足の付け根のツボに針を刺した。
柘榴の全身にピリピリとした感覚が走り、性感が強制的に高まった。
「これでいいだろう……さぁ碧」
「それじゃ、いくよ。柘榴」
「いっ、いやぁ、やめてぇ」
その言葉に碧の口が歪む。そしてその手は、黒髪の筆で柘榴の蜜壺の入口をそっと擽り始めた。
「あぁぁ~、だめっ、だめっ、やめてっ! お願いやめてっ……碧!」
「ふふふっ、言ったろう、朝までだよ。朝までずぅ~とだよ、柘榴」
「いっ、いやぁ~」
そして紅蜂の持つかんざしが、ねっとりと濡れた蜜壺に音もなく滑り込み、中で怪しく動きながら柘榴の急所を探す。
「ひっ! やめてっ紅蜂!」
「ツボを見つけたら、同時にお豆を筆責めだよ。耐えられるかい? 女の髪は筆より感じるからねぇ」
「そっ、そんなの耐えられないよ」
「ふふふっ、そうかい……」
「それは楽しみだねぇ~。ほぉ~らぁ~、ここだろう? ほらっ!」
「ひっ! ひぃぃ~感じるぅ。だめっ、だめっ、そこは、そこはやめてぇ」
かんざしはツボを刺激し、黒髪の筆は剥き出した肉豆を嬲りだした。
「ひぃぃ~! ひっ、ひっ、ひぃぃ~! あぁぁ~逝くぅ~逝くぅ~」
絶え間ない快感に、柘榴の腰が限界まで反り返る。
「ふふふっ、逝きたいだろう? 柘榴。ここは気持ちいいものねぇ。ほらっ、ほらっ、ほぉ~らっ、あぁー逝きそうだねぇ。でもそうはいかないよぉ~」
「このままじっくりと……生殺しだよ、柘榴」
「そう、じっくり、じっくりとね。ふふふっ」
「あぁぁ~、だめっ、だめっ、ひぃぃ~やめてっ! あぁ、もうだめぇ~」
「ほぉ~らっ、ほぉ~ら堪らない。ここだ、ここをほらっ、ほらほら!」
「もう、もう赦してぇ~、お願い、あぁ~、ひっ、ひぃぃ~! ひぃぃ~!」
「耐えられないだろう。ほらっ、ほらほら。まだまだじっくりと生殺しだよ」
屋形船は朝まで揺れ続けていた。
やがて朝日が昇る頃、三人はそれぞれの長屋に帰った。
エピローグ
その日の朝、柘榴は橋を渡り、魚の売れる長屋の一帯に足を踏み入れた。
遠くから下駄を鳴らし、いつもの町娘が手桶を持って走り寄ってきた。
「おはよう、今朝はあたしが一番かい?」
「おはようございます。今日だけじゃなくていつも一番ですよ」
「おやそうかい。あれ? 何だか眠そうだね。寝てないのかい?」
「こう蒸し暑いとどうもよく眠れなくて……困ったもんですよ」
「そうだねぇ、早く秋にならないかねぇ」
町娘は青く澄み渡った空を見上げた。遠くには夏らしい入道雲が沸いている。
「さて、何かいい魚は入ってるかい?」
「へい! 今日はいい鯛が入ってますが、どうです?」
「へぇ~、鯛かぁ。鯛もいいねぇ!」
「私事ですが、ちょいとめでたいことがあったもんで。お安くしときますよ。いかがです?」
「すまないねぇ、いつも、いつも……」
「いえいえとんでもない! 早起きは何とやらって奴ですよ」
「ふふふっ、本当にそうだねぇ。それじゃ、そいつを貰おうかねぇ」
「へいっ! まいどあり!」
町娘は嬉しいそうに手桶に入った鯛を見ると、来た道を帰っていった。
柘榴は天秤棒を担ぐと空を見上げた。
そこには視界いっぱいに、目も眩みそうな青が広がっている。
どうやら今日は、日本晴れになりそうだった。
ー 終 ー