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あなたの燃える手で

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白百合忍法帳

15
(慶安四年 七月十六日)

「薩摩のくノ一は後一人。そのくノ一が密書を持っている筈」
柘榴は海竜院を後にすると、片脚を引きずりながら碧の長屋に向かった。
そこで二重火の持っていた紙を碧に渡した。
柘榴の話から大筋を理解した碧は、満身創痍の彼女からその紙片を受け取ると捜索を引き継いだ。
碧はその日の夜から、十六夜橋の見える柳の木の下で橋を見張っていた。
そして二日の時が過ぎた。

(慶安四年 七月十八日)

月の綺麗な夜だった。
碧の立つ柳の枝を、夏の夜風が音もなく揺らした。
「今夜も誰も来ないか、あの紙片の意味は一体……」
碧が諦めかけた時、一人の女が橋を渡ってきた。
その女は赤い長襦袢を翻し、酔ったような足取りで歩いて来る。乱れた長い髪に、揺れる後れ毛が狂女か夜鷹を思わせた。女は橋のたもとで暫く人を待っているようだったが、そのうち来た道を帰り始めた。
碧は女の後を付けた。
女は川沿いを歩き、途中声を掛けてきた男と肩を並べて歩き始めた。
「やっぱり……ただの夜鷹か?」
女は男の腕にしがみつくようにして歩いていく。
やがて二人は、川縁に繋がれた屋形船に乗り込んだ。
一刻ほど、船は川に波紋を拡げ続けていたが、やがてその波紋が消えた。
すると、女だけが一人で出てきた。そして再び川沿いを千鳥足で歩いていく。
女と距離を十分に開け、碧は屋形船を覗いた。しかしいるはずの男の姿がどこにもない。そこにはわずかに湯気の立つ乳白色の液体が、船底の隙間から少しずつ川へと流れていた。
「これは……? 」
碧は船から川縁の道に戻ると再び女の後を付けた。
女は怪しげな千鳥足で、フラフラと碧の十間程前を歩いていく。
やがて碧はあることに気が付いた。
この先には町人が住むような長屋はない。あるのは武家屋敷ばかりだ。そしてこの道を行くと、そこには『薩摩屋敷』がある。
「まさかこの女、薩摩屋敷に……」
やがて薩摩屋敷が近付いた頃、反対側から歩いてきたもう一人の人物が、月に照らし出された。
それはどちらかというと小柄。剃髪した頭に真っ黒な着物、ゆっくりだがしっかりとした足取りで歩いてくる。手には己の背丈ほどもある杖をついている。
「こんな時刻に尼が……?」
碧は気を引き締めた。
すると赤い長襦袢を着た女が薩摩屋敷に入っていった。そして尼もその後から屋敷に入っていく。
「うぅ~ん、あの襦袢の女は間違いなく薩摩の者、しかしあの尼は……」

(慶安四年 七月十九日)

翌日、碧は薩摩屋敷を見張っていた。
日暮れ間近の空が茜色に染まる頃、長襦袢の女が屋敷から出て来た。
女は川沿いの道を歩き、十六夜橋へと戻りながら男に声を掛けている。
やはり女は夜鷹を装っているようだ。
何人かの男に断れた頃、碧は町娘の格好の儘で彼女に近付いた。
「お姉ぇさん、あたしでもいい?」
そう言って夕日に輝く小判を見せた。
長襦袢の女はニッコリと微笑むと、碧を昨夜の屋形船に連れ込んだ。

二人の乗った屋形船が、川に怪しく波紋を広げていった。

Comments 2

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2008/10/16 (Thu) 14:44 | EDIT | REPLY |   
蛍月  
☆さん、ありがとうございます

まったく気が付きませんでした。
いつもありがとうございます。

2008/10/16 (Thu) 19:48 | EDIT | REPLY |   

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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