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あなたの燃える手で

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TRI△ NGLE

あの店であの子に出会って、すべてが始まった。
やっぱりあれは一目惚れだったと思うし、あたしは別に後悔していない。
霧が晴れ森が真実を現し、日が昇りあの星座は消えても……。



            TRINGLE


△プロローグ
風温む4月のある週末、夜空には星々を押しのけるようにして満月が高く昇り、その下には青白い雲が、蛇のようにその身を横たえていた。

「夢の森駅商店街」の裏通りを歩く、一人の女『桐沢明美』。
彼女はネオンの消えた映画館の角を曲がると、商店街の表通りに出た。
ほとんどの店のシャッターが降りた商店街を、駅に向かって歩いていく。
途中、駅側近くのカフェの明かりだけが煌々と灯っていた。
カフェの前を通り過ぎ、商店街の出口まで来ると、駅前の幹線道路の向こうに、大きなバスターミナルが広がっている。明美は点滅を始めた幹線道路の信号を足早に渡った。春の風に桜色のスプリングコートがヒラヒラと翻った。
そこから幹線道路沿いに5分ほど歩くと、ライトアップされた白いゴシック調の建物が見えてくる。この春にオープンしたホテル『クイーンホリデー』だ。
正面の低い階段を何段か登り、入口の前に立つと大きなガラス扉が開いた。
明美はロビーを横切り、エレベーターに乗ると18階のボタンを押した。
扉は音もなく閉り、足元から静かな浮遊感が生まれる。
そして明美は、階数表示を移動する明かりを見つめた。
18階で扉が開くと、明美は静まりかえった通路に足を踏み出した。

△1 
このホテルの18階には、レストランやお酒の飲める店が何軒か入っている。
既に閉店時間を過ぎたレストランの横を通り、明美は一番奥の店に向かった。
そこには黒地にダークブルーの文字で ”Bar『MELLOW BLUE』”と書かれた看板が、小さなドアの上で静かに輝いていた。ドアは青いガラス製で、薄暗い店内の明かりが青い光となって通過してくる。
明美はそのドアをそっと押した。
中に入ると中は思った以上に暗い。店内は全て艶のある木目調で統一され、右奥に伸びるカウンターには、背もたれのない10脚の椅子が並び、その奥には壁を覆い尽くすボトルが、控えめな照明を反射している。カウンターの他には丸いテーブルが4つあった。

カウンターの中には、彫りが深く愛くるしい顔立ちの女性バーテンダーが立っていた。その顔からどうやら彼女はハーフのようだった。背が高く、肩甲骨を隠す程のカールした金髪。第2ボタンまではずした白いYシャツからは、わずかに胸の谷間が垣間見える。歩く度に、割れた黒いタイトスカートから覗く脚がとても綺麗だった。
(なんて可愛い顔。まるでフランス人形みたい)
というのが、彼女に対する明美の第一印象だった。
「いらっしゃいませ。どうぞお好きな席に……」
そう言って彼女は、蕩けるような笑顔を明美に向けた。
しかし明美の目を釘付けにしたのは彼女ではなく、この店にいるたった一人の客。カウンターの一番奥の椅子でグラスを傾ける一人の女性だった。彼女は明らかに年下の、そう、それはまだ女子高生にしか見えない程若く見えた。
明美は吸い寄せられるように、彼女の二つ隣の椅子に腰を下ろした。
その時、彼女が空になったグラスを前に押し出した。
「ねぇ、L。もう一杯お願い……帰りたくないの……」
そう言ってLと呼ばれたバーテンダーを見上げた彼女に、明美は心の動揺を隠せなかった。吸い込まれそうな潤んだ大きな瞳。スッと通った鼻筋の下にある、桜の花びらのような濡れた唇。そしてLと同じ位の、いやそれ以上の長さの真っ直ぐな黒髪はキラキラと輝き、清流のように彼女の肩を流れ落ちた。
「もう3杯目よ、本当に大丈夫なの? 桜子」
Lはそう言いながら、カウンターに置かれたグラスに右手を伸ばした。

テナーサックスの低音が、二人のBGMのように流れていた。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土