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あなたの燃える手で

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花乃杜病院

7
その日の午後、時江は三階の病室に移動した。

「いいお天気ねぇ。今日は遠くまでよく見えるわ」
由美は病室のカーテンを開けると、三階の窓から見える景色を眺めた。
その姿に、時江は上半身を起こしてヘッドボードに寄り掛かった。
「あらっ、ホントですね、早くカーテン開ければ良かったわ」
時江が三階の病室に移って一週間が過ぎた。
「窓も開けて、換気しますね」
「はい、すみません」
中村時江は、頭だけをペコリと下げた。
由美が窓を開けると、涼やかな風がカーテンをフワリと膨らませた。

「中村さんは地元じゃないから知らないでしょうけど、ココから見えるあ
の川ね、コンコン川っていうんですよ」
「コンコン川?」
「えぇ、昔この辺りにキツネが住んでいて、そこから付いた名前らしいで
すけどね、それがいつの間にかキツネがコンコンになって、コンコン川っ
て呼ばれるようになったんですって……」
「へぇ、面白ぉい」
「ホントに、変な名前よね」
由美は時江に振り返ると、ベッド脇に置かれた椅子に腰掛けた。
「中村さん、45歳にとても見えませんね」
「えっ? あっ、そんな……。あたしなんて……」
「そんなことないですよ。髪だって艶々で、ホントにキレイ」
由美は背中の中程まである、時江の黒髪を見つめた。
「そう……、ですか……」
「そうですよ。それにこの肌。白くてきめ細かくて……。チョット触って
もイイですか?」
「あっ、はい……」
由美は時江の手の甲から肘までを撫でた。
「ほらっ、スベスベじゃないですか」
由美は途中から、少し指先を立てるようなフェザータッチで触った。
「あぁ……ん」
その小さな吐息を、由美は聞き逃さなかった。
「んん? どうしました? どこか痛みます?」
「い、いいえ……。ただ……」
「ただ?」
「今の触り方が、なんとなく……、イイ感じで……」
「あらっ、イイ感じって、敏感なんですね、中村さん」
「えぇ、割と……」
「中村さんシングルですけど、ご結婚は一度も?」
「えぇ、はい。一度もありません」
「そうなんですか。なんかごめんなさい。立ち入ったこと聞いちゃって」
「いえっ、そんなことないです」
「実はね、ウチの院長もそうなんですよ」
「そうなんですか?」
「えぇ、もう全く結婚する気がなくて……。回りが心配するくらい」
「うっふっ、面白い……」
「ホントに、男に興味がないみたい」
「えっ?」
「いえね、院長。男より女の方がいいのかしら、なんてね……」
「でも、中にはそういう人もぉ……」
「えっ、中村さん、もしかして……?」
「えぇ、実はあたしぃ……。女性しか……、愛せない……」
「それって、レズ、ビアン……、ですか……?」
「はい」
これは嬉しい誤算だ。まさかカミングアウトとは。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土