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あなたの燃える手で

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花乃杜病院

6
備品庫を出ると、二人は院長室へと入った。
院長室といっても、元々が小さな病院だ。その広さは通常の診察室ほど
で、室内にある物といえば、机に椅子、戸棚に本棚。ローテーブルにソフ
ァくらいのものだ。
二人はローテーブルを挟んで向かい合った。

由美はソファに座ると、すぐにファイルから中村時江の資料を出した。
「ねぇ二階の中村さんだけど……、どう?」
「はい。中村さんは入院一ヶ月。全身に及ぶ骨折箇所は金属プレートで固
定。リハビリも順調。現在自力歩行がやや出来るようになっています」
「順調なようね」
「はい。おおむね順調です。ですが膝と肘と肩間接の可動域はまだ半分以
下。同様に手首と足首もまだ動きません」
そこまで読み上げて、由美は書類を机に置いた。
「そうですねぇ、そこそこ動けるようにはなってきてますから、このまま
いけば……」
「もう、由美。そうじゃないくて、アッチの方はどうかって聞いてるの。
脈はありそう……?」
院長は悪戯っ子のような目で由美を見た。
「あぁ、それはですねぇ、今まで昏睡状態でしたから、なんともぉ……」
「そうか、そうよねぇ」
「でも、さっき会話した限りでは、取り敢えず "M" というのがあたしの
見立てです」
「あらっ、そうなの。あなたの見立ては当たるから。それにしても、見て
るところは見てるのね」
「これは習慣みたいなものですから……」
「まぁ、そんなこと言って。アナタが一番オイタしたいんじゃないの?」
「えっ? いいですか? あたしが先で。結果は逐一報告しますから」
「いいわよぉ。報告を楽しみにしてるわ。なんなら病室も三階に移した
ら、その方が気兼ねなく……、ねっ」
「そうですね。三階には病室は一つだけですし、この間防音設備の工事も
終わったばかりですから」
「そうそう。あれね、中でカラオケパーティーしても判らないみたいよ」
「そうなんですか? そんなに……」
「それってつまり、中で何があっても、何をしても、誰にも判らないって
いうことよね」
「そうですよね。ありがとうございます。院長先生」
由美はゆっくりと頭を下げた。


「中村さん、今日病室三階に移動しますね」
「えっ……? そうなんですか?」
意識を取り戻してまだ間もない時枝だが、この病室にも少し慣れたきたと
ころだった。
「えぇ、ごめんさんさいね。他の患者さんとの兼ね合いがあって」
「いえっ、あたしは別に何処でも……」
「そういって貰えると助かります。でもココだけの話、三階の方が景色も
いいですし、もう病室が変わることもありませんから」
「はい」

その日の午後、時江は三階の病室に移動した。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土