狩人はバニラの香り
17
空に星が増え始める頃、明日香は『アマデウス』の近くに来ていた。
それとなく前を通り中を覗いたが、誰の姿も見あたらなかった。
客もいなかったが、ママも、あの彼女の姿も見あたらない。しかしドアには
「営業中」の札が下がっている。
明日香は思いきってドアを押し店内に入った。この間と同じ、観葉植物の陰に
なる席に座った。
「いらしゃいませ」
さっきはいなかった彼女が、あの電車の彼女がここでもミニスカートで、水を
持ってやってくる。
やっぱりここでバイトしてたのねぇ。なんかドキドキしちゃうなぁ。偶然よ、偶然。そう偶然このお店に来ただけなんだから……。
彼女が近づくほどに、あの綺麗な脚が目立ち、今更ながら恥ずかしさがこみ上げてくる。明日香はそう自分に言い聞かせながら、平静を装った。
「いらしゃいませ。……あらっ」
「えっ? あっ、ああっ、どうも……」
2人は目を丸くして見つめ合った。
「いらっしゃいませ。朝はどうも」
響子が仕切り直すように言葉を繋いだ。
「いっ、いえっ、そんな。あのぅ、ここでバイトしてるんですか?」
「はいっ、良かったらご贔屓に。ご贔屓ってあんまし言わないね」
「うふふふっ。あそうだっ、あのう名前聞いても良いですか」
「響子っていいます」
やっぱし、やっぱし響子だったんだ。
「あたしは明日香。星野明日香っていいます」
「明日香? 可愛い名前ねぇ」
「いえっ、そんなぁ」
明日香は肩から重荷を下ろしたような気分だった。振り返れば初めて駅のホー
ムで彼女、響子を見つけて以来、ずっとこの日が来るのを待っていたような気
がする。片思いの人に思いが伝わったような、そんな気分だった。
外はもうすっかり暗くなっている。
「あのう、ここ何時までですか?」
「9時までよ。でもいいわよ。明日香ちゃんがゆっくりしたいなら」
「えっ?」
「あのね。今日はもうママ上がっちゃったの。だからどうにでもなるわよ」
「えっ、それって」
「何ならもう閉店にして……、どうせもうあんまりお客さん来ないから」
「そうなの?」
「うん。そうしよう。ねっ。せっかく会えたんだから。ゆっくりしてって」
「えっ、ええぇ」
そう言うと響子はドアに「本日閉店」の札を出し、店のロールブラインドを降
ろしていった。
空に星が増え始める頃、明日香は『アマデウス』の近くに来ていた。
それとなく前を通り中を覗いたが、誰の姿も見あたらなかった。
客もいなかったが、ママも、あの彼女の姿も見あたらない。しかしドアには
「営業中」の札が下がっている。
明日香は思いきってドアを押し店内に入った。この間と同じ、観葉植物の陰に
なる席に座った。
「いらしゃいませ」
さっきはいなかった彼女が、あの電車の彼女がここでもミニスカートで、水を
持ってやってくる。
やっぱりここでバイトしてたのねぇ。なんかドキドキしちゃうなぁ。偶然よ、偶然。そう偶然このお店に来ただけなんだから……。
彼女が近づくほどに、あの綺麗な脚が目立ち、今更ながら恥ずかしさがこみ上げてくる。明日香はそう自分に言い聞かせながら、平静を装った。
「いらしゃいませ。……あらっ」
「えっ? あっ、ああっ、どうも……」
2人は目を丸くして見つめ合った。
「いらっしゃいませ。朝はどうも」
響子が仕切り直すように言葉を繋いだ。
「いっ、いえっ、そんな。あのぅ、ここでバイトしてるんですか?」
「はいっ、良かったらご贔屓に。ご贔屓ってあんまし言わないね」
「うふふふっ。あそうだっ、あのう名前聞いても良いですか」
「響子っていいます」
やっぱし、やっぱし響子だったんだ。
「あたしは明日香。星野明日香っていいます」
「明日香? 可愛い名前ねぇ」
「いえっ、そんなぁ」
明日香は肩から重荷を下ろしたような気分だった。振り返れば初めて駅のホー
ムで彼女、響子を見つけて以来、ずっとこの日が来るのを待っていたような気
がする。片思いの人に思いが伝わったような、そんな気分だった。
外はもうすっかり暗くなっている。
「あのう、ここ何時までですか?」
「9時までよ。でもいいわよ。明日香ちゃんがゆっくりしたいなら」
「えっ?」
「あのね。今日はもうママ上がっちゃったの。だからどうにでもなるわよ」
「えっ、それって」
「何ならもう閉店にして……、どうせもうあんまりお客さん来ないから」
「そうなの?」
「うん。そうしよう。ねっ。せっかく会えたんだから。ゆっくりしてって」
「えっ、ええぇ」
そう言うと響子はドアに「本日閉店」の札を出し、店のロールブラインドを降
ろしていった。