狩人はバニラの香り
1
明日香の後には既に10人以上の人が並んでいる。
前に並ぶ彼女は、いつもの水色のトートバッグを持ち、明日香は迷彩柄のリュックを左肩に掛けていた。
滑り込んできた電車の風に、明日香のセミロングの髪が勢いよくなびいた。
ドアが開いても降りる人はほとんどいない。明日香は彼女の後に付いて電車に乗り込んだ。彼女は奥へと進み、水色のトートバッグを右腕に掛け、押されるようにして左手で連結部分の手摺りに掴まった。明日香は彼女の後に立つとリュックを網棚に乗せ、同じ手摺りの少し下を掴んだ。
乗客は更に乗り続け、車内はすし詰め状態になった。明日香の体が後ろから押され、胸が彼女の背中に触りそうになった。
彼女が次の「夢の森」で降りるのは分かっている。そこまでの所要時間は約
15分。明日香の通う城南美大は「夢の森」駅からさらに特急で1駅、時間にして約10分の所にある。
電車がレールの継ぎ目を渡る音だけが、明日香の中に響いた。
今から15分、明日香の胸は高鳴った。
1週間前、初めて彼女を見てからいつも彼女の近くに立っていたが、これほど近くに、しかも後に立ったことは無かった。
ちょっとだけ、ちょっとだけ、触りたい。押されたフリして触っちゃおうか。
明日香が踏ん切りがつかずにいる時、電車がカーブに差し掛かり、彼女のお尻が明日香の下半身に押し付けられた。
うわぁ、柔らかーい。心の中で明日香は喜びの声を上げた。彼女の立ち位置がずれたのか、お尻は明日香に触れたままになった。
明日香はそれをいいことに、空いている右手の指先で、彼女の太腿の裏にそっと触れた。
彼女に反応は無かった。明日香はもう1度触った。やはり反応はない。
今度はもう少し大胆に、触れると言うよりは完全に触るといった感じだ。
車内の揺れと共にその指を滑らせた。彼女の太腿はひんやりと冷たく、思った通りスベスベとしていた。
しかしそれも一瞬、明日香はすぐに指先を離した。これ以上触っていたら、いくら何でも不自然だ。痴漢呼ばわりされるかもしれない。
電車は速度を落とし「夢の森」駅に到着しようとしていた。
彼女が下車するために明日香の方に振り向いた。その時彼女と明日香の目があ会った。その唇は微笑んでいるように見えた。いや、彼女の明日香を見る目、その目に明日香は確かに温度を感じた。
彼女は振り返ることなく電車を降り、人混みに消えていった。
明日香の後には既に10人以上の人が並んでいる。
前に並ぶ彼女は、いつもの水色のトートバッグを持ち、明日香は迷彩柄のリュックを左肩に掛けていた。
滑り込んできた電車の風に、明日香のセミロングの髪が勢いよくなびいた。
ドアが開いても降りる人はほとんどいない。明日香は彼女の後に付いて電車に乗り込んだ。彼女は奥へと進み、水色のトートバッグを右腕に掛け、押されるようにして左手で連結部分の手摺りに掴まった。明日香は彼女の後に立つとリュックを網棚に乗せ、同じ手摺りの少し下を掴んだ。
乗客は更に乗り続け、車内はすし詰め状態になった。明日香の体が後ろから押され、胸が彼女の背中に触りそうになった。
彼女が次の「夢の森」で降りるのは分かっている。そこまでの所要時間は約
15分。明日香の通う城南美大は「夢の森」駅からさらに特急で1駅、時間にして約10分の所にある。
電車がレールの継ぎ目を渡る音だけが、明日香の中に響いた。
今から15分、明日香の胸は高鳴った。
1週間前、初めて彼女を見てからいつも彼女の近くに立っていたが、これほど近くに、しかも後に立ったことは無かった。
ちょっとだけ、ちょっとだけ、触りたい。押されたフリして触っちゃおうか。
明日香が踏ん切りがつかずにいる時、電車がカーブに差し掛かり、彼女のお尻が明日香の下半身に押し付けられた。
うわぁ、柔らかーい。心の中で明日香は喜びの声を上げた。彼女の立ち位置がずれたのか、お尻は明日香に触れたままになった。
明日香はそれをいいことに、空いている右手の指先で、彼女の太腿の裏にそっと触れた。
彼女に反応は無かった。明日香はもう1度触った。やはり反応はない。
今度はもう少し大胆に、触れると言うよりは完全に触るといった感じだ。
車内の揺れと共にその指を滑らせた。彼女の太腿はひんやりと冷たく、思った通りスベスベとしていた。
しかしそれも一瞬、明日香はすぐに指先を離した。これ以上触っていたら、いくら何でも不自然だ。痴漢呼ばわりされるかもしれない。
電車は速度を落とし「夢の森」駅に到着しようとしていた。
彼女が下車するために明日香の方に振り向いた。その時彼女と明日香の目があ会った。その唇は微笑んでいるように見えた。いや、彼女の明日香を見る目、その目に明日香は確かに温度を感じた。
彼女は振り返ることなく電車を降り、人混みに消えていった。