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あなたの燃える手で

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水蜜楼別館離れ



楼別館離れ



PROLOGUE
「あぁ、とうとうこんな所まで来てしまった」
都心から電車を乗り継ぎ数時間、奈津は見知らぬ駅に降り立った。
単線のレールを軋ませながら電車が走り去ると、そこには青いアルプスが目の
前に迫っている。
そんな景色を眺めながら、奈津は空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「はぁー美味しい。やっぱり違うわね。都会の空気とは……」

『花村奈津』38歳。夫の浮気で離婚。同時期に職場での上司のセクハラに耐
えかね退職。引越しでもして全てをリセットして出直す決心をしたが、その
前にせっかくの自由を謳歌しようと、今回の旅に出た。
旅といっても、最初はほんの2~3日のつもりだった。そう、あの人に出会う
までは。



1
改札を抜け駅前に出ると、"ようこそ三如来温泉郷へ" と看板がある。
「暫くここでゆっくりしてみようかしら……。とりあえずは宿か……」
日はまだ高いが、奈津はとりあえず宿を確保することにした。
別に急ぐ旅でもなし、奈津は近くに見つけた観光案内所へと歩き出した。

観光案内所でられ勧められた宿は、『水蜜楼』という和風旅館で、シーズン直
前の今なら、比較的安く泊まれるということだった。つい最近、離れが新設さ
れたらしい。そんな話を聞きながらパンフレットを見せられ、他にも数件案内
されたが、結局最初の水蜜楼に決めた。

「さて、宿も決まったし、ちょっとこの辺をブラついてみようかしら……」
軽井沢や上高地のようなオシャレな感じとも違う、かといってひなびた温泉地
というのでもない。土産物屋や食堂が多い駅前はさすがに多少の喧騒はあるも
のの、少し道の先を覗くように見れば、昔からの旅館やホテルが、青い清流に
沿って静かに立ち並んでいる。
そんな清流を川上に辿って見れば、ここ三如来温泉郷の名前の由来にもなって
いる霊山『三如来山』が見える。一つの山に三つの山頂を持つようなその姿、
山肌の露わになった部分の明暗など、確かに三体の如来像に見えなくもない。
信心深い昔の人なら、尚更そう見えたかもしれない。
奈津は数件の土産物屋を覗きながら、清流沿いの緩やかな坂道をブラブラと登
っていった。

暫く行くと、一本の細い橋があった。その橋は地元の人しか渡らないような、
その先に行っても何もないような道が続いている橋だった。しかし奈津の目を
引いたのは、その橋に佇む一人の若草色の和服を着た女性だった。
俯いて川を見る姿はなんとも儚げで、その若草色の着物はまるで深緑に溶け込
んでしまいそうだった。
奈津は自然に、本当にごく自然にその橋に向かって歩き始めていた。それは何
故だかわからない。そこに行っても何もないのはわかっている。でも彼女の引
力に引かれるように、奈津の足は止まらないのだ。自分はいったい彼女のなに
に惹かれているのか……。
奈津は一歩一歩、その女性へと近づいていった。
袖から伸びる白い腕を欄干に乗せ、着物に走る数本の皺から、片膝を軽く曲げ
ているがわかる。帯を巻かれた腰はくびれ、その上の胸は大きく張り出し、柔
らかな曲線のお尻からに伸びる脚は、きっと美しいに違いない。
「あぁ、なんであたし、女性の服の下を想像するなんて……」
それでも奈津の足は止まらず、やがて彼女のすぐ隣へとやって着た。

「あっ、あのぅ、なに見てるんですか?」
「えっ、あっ、川の鯉を」
「鯉?」
見れば川にはかなり大きな鯉が数十匹は泳いでいる。中には赤や金色の混じっ
た錦鯉もいた。
「ホント、大っきい……」
「あのう……、失礼ですけど、こちらには旅行で」
「はい。さっき着いたばかりで、とりあえずブラついてみようかなって」
「そうですか」
「あっ、そうだ、水蜜楼ってご存知ですか?」
「えぇ……」
「実はさっき予約をしたんですけど、ここからは遠いですか?」
「いえ、それほどでも……。よろしかったらご案内いたしましょうか」
「えっ?」
「あたくし、水蜜楼で女将をしておりますので」
そう言って彼女は、ゆっくりと丁寧に頭を下げた。
なんという偶然。運命すら感じてしまうこの出会いに、奈津は二つ返事で彼女
に付いて行った。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土