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あなたの燃える手で

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怪盗ムーンライト

27
犯行予告の土曜日、時刻は午後12時になろうとしていた。
竜胆はもう1度確認するように、展示室内を見回した。
展示室内には約40人の客がいる。入口のドアの両脇には警官が立ち、部屋の
中央に置かれたガラスケースの回りには、半径2メートル以内に近づけないよ
うにロープが張られている。ロープの内側には、ケースを挟んで2人の警官が
待機している。
竜胆、ジェシカ、ヒロミ、カンナの私服組は、絶えず室内を巡回していた。
「よし、いいだろう」
竜胆は小さく頷いた。
警備体制に抜かりはなく、配置も完璧だ。入口以外にムーンライトの入り込む
余地はなく、またガラスケースにも誰も近づくことは出来ない。
そして竜胆、ジェシカ、ヒロミ、カンナらが一斉に時計を見た。
時刻は午前11時59分50秒。ムーンライトの予告した時刻まであと10秒だ。
9・8・7・6・心の中で秒読みが始まる。
5・4・3・2・1・ゼ……。
その時竜胆は、どこかで "シュッ" と何かが擦れるような音を聞いた。
次の瞬間、どこかから白煙が猛烈な勢いで吹き出した。
「えっ、なに?」
白煙は1ヶ所ではなく、2ヶ所3ヶ所とその噴出口を増やしていく。しかし炎
は見えない。
「ちっ、発煙筒か……」
室内の客は一斉に悲鳴を上げ、パニックに陥っている。
「落ち着いて、落ち着いてください」
至る所で人が転び、悲鳴が響き渡った。
「火事ではありません。落ち着いて、押さないで……」
「発煙筒だ、ジェシカ、ヒロミ、カンナ……」
しかし竜胆の声も悲鳴に虚しく掻き消され、辺りは数秒で白煙に包まれた。
それは天上にまで及び、狭い展示室内は完全に視界を奪われた。

入口を閉めるべきか? 竜胆は悩んだ。
入口を閉めれば月光をこの室内に閉じ込めることが出来る。しかしそれは同時
にこの煙が晴れるのに時間が掛かることを意味している。
迷っている暇はない。
「入口だ、入口を閉めろ」
「鍵締めちゃうぞ作戦、決行です」
カンナの声がどこかでそれに続いた。
そして入口のドアが閉まる音が聞こえた。
方向感覚を失った客は、張られたロープ内にも入り込み、お互いがぶつかり合
い、かえって動きが取れなくなっていた。
私服の4人も、そんな不規則な人間の波に飲み込まれた。
「皆さん、動かないで……。警察です。大丈夫、火事ではありません」
「これは発煙筒です、毒性はありません。慌てないでください」

その時、竜胆は気が付いた。
そういえば、警報機が鳴らない。今回は重量感知センサーも使っている。もし
ルビーの重さに変化があれば警報音が鳴るはずだ。
それがしないということは、ルビーは無事ということか……。しかしこの煙で
はそれも確認のしようがない。いやそれどころか、ガラスケースの方向も分か
らないのだ。
やがて外からの応援が駆けつけ、入口にロープが張られた後にドアが開けられ
た。そして室内の排気ダクトも開けられ、ようやく煙が晴れてきた。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土