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あなたの燃える手で

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怪盗ムーンライト

12
小夜のベッドに潜り込んだ円香は、体を横にすると小夜と向き合った。
「ねぇ、お姉様。今日はあの美術館や警察、きっと大変だったでしょうね」
「そうね」
「だって、怪盗ムーンライトの予告状が届いたんですもの」
「そうね」
「明日の朝刊はきっと、"怪盗ムーンライト現る" って見出しよ」
「そうかしら……」
「そうよ、きっとそう。だっていつだってそうでしょう。パリでもロンドンで
も、ニューヨークやベルリンだって……。ムーンライトの予告状が届いたら、
翌日の一面は決まって "怪盗ムーンライト現る" だったわ」
「そんなこと、もう昔のことよ。円香」
「ううん、そんなことないわ。『ルパンの涙』っていうダイヤだって、盗まれ
たら大変。だって世界の究極美って言われるのダイヤだもん。それこそ世界中
がニュースに取り上げるわ。ムーンライトはまだまだ現役よ、お姉様」
「だといいんだけど……」
小夜は片手で円香の頭を撫でた。それは小さな子の頭を、イイ子イイ子をする
のと同じだった。
円香が顔を上げ、大きな瞳で小夜を見た。
小夜は彼女の頬に掛かる髪を耳の後ろに撫でつけた。
「今夜はもう寝なさい、円香……」
2人は僅かな時間見つめ合うと、そっと唇を重ねた。



七海美術館に、ムーンライトからの予告状が届いてから1週間。
警察は館内の監視カメラの数を倍に増やした。それは死角の無いように設置
し、今まで撮れなかった場所も撮れるようになった。美術館周辺の警備や人員
配置も検討し、関係車両の全てにGPSを付け、万が一盗難されても追跡でき
るようにした。更に主要道路のNシステム(自動車ナンバー始動読み取り装
置)の増強も計った。

「これだけ警備を増強すれば、透明人間にでもならなきゃ忍び込めませんよ」
カンナは3階の展示室で、美術館の人員配置図を見ながら微笑んだ。
「だといいんだけど……」
ヒロミは難しい顔をしてカンナを見た。
「どうしてですか? 万が一盗んでも検問に引っ掛かるし、検問を抜けてもN
システムに必ず引っ掛かりますよ。GPSだって彼らは知らないわけですし」
2人は展示室中央の、赤いベルベットの掛かった台座があるガラスケースに向
かって歩いた。当日はその台座にダイヤが置かれる。
「でもアイツは今までそういった警備を全てかいくぐって来ている。今回も裏
をかかれる可能性はゼロではない」
「そうね。相手は怪盗ムーンライト。世界を股に掛ける怪盗よ。警戒し過ぎる
と言うことはないわ」
ケースの前で立ち止まった2人は、後ろから聞こえたその声に振り返った。
そこには怪盗ムーンライト特別捜査本部の主任である、竜胆晶が立っていた。
彼女はそのまま話を続けた。
「ダイヤは当日にこの防弾ガラスのケースに入れられる。それまでは銀行の金
庫の中だ」
「はい」
「ケースの監視は24時間。部屋の四隅から4つの監視カメラが常に見張って
いる。ケースには半径3メートル以上は近づけない。鍵は指紋認証。この指紋
はあたしの指紋を使うことになった」
「それじゃケースの鍵を開けるには、竜胆さんと一緒じゃなきゃ絶対開けられ
ない。ってことですよね」
「そう、あたしの指を読み取り装置に押しつけなければ、絶対に開かない」
「ただし、主任を殺して指だけ持参すれば別だけどね」
「えっ? そんな。だってムーンライトは……」
「わかってる。アイツは殺しはやらない。きっと今回も……」
それを聞いて、カンナは少しホッとしたように微笑んだ。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土