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あなたの燃える手で

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眠れない羊たち

第28話:秘密 3
それからあたしは救出され、そして沙織さんと共に海百合荘に返された。
どのみち翌日は帰るコトになっていたので、予定に大きな変更はない。
あたしは部屋で布団を敷くとその上で大の字になり、この島に来てからを振り
返りながら、最後の夜を過ごした。

かなり危険な、たぶんあのままだったら、秘密を知ったあたしは殺されていた
のだと思う。
でも今、こうしていつもと同じような夜を迎えていると、そんなコトがあった
なんて信じられない。
あたしの中では、やっぱり女将さんはあの優しい女将さんのままだからだ。

そう言えば、どうして沙織さんがこの島へ潜入したのか。
そういう麻薬があったとして、何故こんな小さな島に白羽の矢を立てたのかを
聞いてみた。
彼女が言うには、あの蜜百合という白い百合は、この島にしか自生していない
らしい。この島の環境でしか育たない特殊な植物だと言うことだった。
押収した薬を分析すれば、それが蜜百合だと言うことは判っただろう。それが
そういった植物ならば、当然この島が怪しいと言うことになる。
一方この島育ちの3人は、当たり前のように蜜百合を利用した。何処にでもあ
る百合だと思って……。まさかこの島にしかない花とは夢にも思わずに。
ちなみに丘一面に咲き乱れていた蜜百合は全て焼き払われた。
今ではもう、いやこれから先見るコトはもう二度と出来ないだろう。
あの丘の写真を撮っておいて、本当に良かったと思う。


あたしの部屋のドアをノックする音がした。
誰? と聞くまでもなく、それは沙織に決まっている。今この海百合荘にいる
のは、あたしと沙織さんしかいないのだから……。
「真紀ちゃん……」
「はい……」
あたしはドアを開けて彼女を迎えた。
「本当にありがとうございました。あたしあのままだったら……」
「ううん、いいのよ。そんなコトより大丈夫? 怪我はない?」
「はい、大丈夫です」
「そう、良かったわ」
そう言って彼女は、満面の笑みで微笑んだ。
「でも何だか女将さん……、可哀想……」
「そうね。本当は羊のように臆病な人達だったのよ。でもこれで、もう怯えず
に眠ることが出来るようになったんじゃないかしら……」
「そうですね……。それならいいんですけど……」
「それじゃ、あたしいくね。今夜は真紀ちゃんもグッスリ眠るのよ」
沙織さんはそれだけ言うと部屋から出ていった。
もしコレが女将さんだったら、あたしに寄り添うように座って、肌をすり寄せ
てくるんだろうなぁ。「真紀ちゃん、本当に大丈夫だったの? 見せてごらん
なさい」なぁんて言って。
そう思うと、あんなコトがあったとは言えチョット寂しい。
あたしったら、また女将さんを思い出して感傷的になってる。


今から思えば、まるで映画のような今回の旅だった。
随分と危ない目にもあった。本当は部屋でこうしてゴロゴロしているのが一番
落ち着く。
でも、それでもあたしはまた何処かへ旅立つだろう。そこにミステリーがある
限り、ミステリーハンター真紀の冒険に終わりはないのだ。

終幕:
あたしはココまでをノートパソコンに打ち込んだ。
女蜂島からこの「夢の森」に帰ってきて、あたしはようやく旅の記録を小説風
にまとめ終えたところだ。
チョットした小説風にするつもりだったけど、何だかヘタなエロ小説みたいに
なっちゃった。
そうだ、商店街のあのカフェ。「アマデウス」っていったっけ? あそこにで
も行ってみようか。ミステリーは何処に転がってるか判らないし……。

あたしはノートパソコンをバッグに入れると椅子から立ち上がった。
アパートを出たあたしの頬を、少しだけ温かな風がキスをして逃げていった。


ーENDー

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土