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あなたの燃える手で

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アンティークドール

16
カーテンを開けると、窓の外は一面の雪だった。
「うわぁ、ホワイトクリスマスだぁ……。でも、どっから夢? 確かあの骨董
屋でアンを見つけて……、不思議な老婆がいて……」

あたしは雪道を歩いて『ZOLA』に行ってみた。
もしかしたら、あの骨董屋も夢の産物かと思ったからだ。
でもあの路地には確かに骨董屋があって、近づくほどに読めるようになる、
『ZOLA』と書かれた看板も同じだった。
「やっぱり、ココは夢じゃなかったのね」
そして店内を覗き込む。
やはり老婆はいない。その代わりといってはなんだけど、あたしはまたアン
ティークドールを見つけた。
それは老婆の服装にそっくりな、司祭服のようなものを着ていて、まるであの
老婆が若返って人形になったようだった。
あたしはそのアンティークドールを手に取った。

「それはこの店の先々代を模して作られた、アンティークドールなんですよ。
もう100年も前の話なんですけどね……」
突然声を掛けてきたのは、あたしの母くらいの年齢の人だった。
「そうなんですか……」
「えぇ、その人は外国人で、日本に来て西洋の骨董品を売っていたらしいで
す。名前はゾラっていったそうです」
「それじゃ、このお店の名前はこの人の……?」
「そうなんですよ」
「あのう、この人形おいくらですか?」
「3000円です」
「3000円? アンと同じ値段だ」
「はい?」
「いえっ、なんでもないです。これ下さい」
「はい、毎度ありがとうございます」


家に帰るとそのアンティークドールを箱から出し、机の上でアンと一緒に座ら
せてみた。名前は『ゾラ』に決まっていた。
しかしゾラは左に傾いて倒れてしまう。
「あっ、そうか……。そうだったのね」
あたしは右に傾くアンの右にゾラを置いた。すると2体のアンティークドール
は互いにより掛かり合った。
すると人形達は意思を持ったように自然に位置がズレ、アンは右に傾けた頭を
ゾラの肩に載せた。
「なるほど……、あなたたちは100年ずっとこうしていたのね。だからクセが
付いて、1体では倒れてしまう」
こうして見るアンとゾラは、とても幸せそうだ。
「ごめんなさいね。あたしがあなた達を引き離してしまったのね。でももう大
丈夫。誰かに買われて離ればなれになることもないわ」
その瞬間、空耳のようにあの老婆の声が心に聞こえた。
……ありがとう、ありがとうお嬢ちゃん……

あたしは、改めて2体のアンティークドール、いや2人を見た。
「もしかしたら、悪戯をしたのはアナタなの? ゾラ。離ればなれになるとア
ンを取り戻そうとして、あんな夢を見せて、また一緒にいようとしたのね。
でもアンはココが気に入った。って言うより、どちらかが買われて離ればなれ
になるコトに疲れたのかもね。だからゾラ、アナタをココへ呼んだ」
今から思えば、"あたしの元へ来て" っていうメッセージが、あのお墓の夢だっ
たりして……。
あたしはチョットした恋のキューピットってトコロね。
ずいぶん振り回されたけど……。


EPILOGUE
あたしは机から2人を抱き上げると、出窓に持っていった。
そして窓辺にアンとゾラを並べて腰掛けさせた。
「今日はクリスマスよ。世界中が祝福に包まれているの」
するとアンは、ゾラに甘えるようにもたれ掛かった。
「もちろんあなたたちもね」

くもり始めた窓ガラスの向こうで、白い雪がやさしく降り積もっていった。



ーENDー


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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土