2ntブログ

あなたの燃える手で

Welcome to my blog

アンティークドール

14
クリスマスの午後。
あたしはアンを紙袋に入れると、自転車で『ZOLA』に向かった。
「もう少しその子を部屋に置いておやり」ってあの老婆は言ってたけど、やっ
ぱりあたしには無理。もうアンとは一緒にいられない。
こうして見るアンはとても綺麗で可愛くて、返すのはなんとなくかわいそうな
気もするけど、でももう耐えられない。
あたしは気が変わらないうちにと、自転車のスピードを上げた。

店に着くと、あたしは紙袋からアンを出してその旨を老婆に伝えた。
「そうかい、それじゃ3000円で買い取るよ」
老婆は椅子に座って、あたしを見上げた。
「そんなイイです、買い取るなんて……」
なんとなくアンを、お金でどうこうしたくなくて、あたしは老婆の申し出を
断った。
「それじゃ、お返ししますから……」
あたしは文字通り後ろ髪を引かれる思いでアンに背を向けた。
そのあたしの背中から、老婆の声が聞こえた。
「お前はまた悪戯をしたのかい? 悪い子だねぇ……」
「えっ? また? またって、どういう意味ですか……?」
腑に落ちないその言葉に、あたしは振り返って老婆に聞いていた。
すると老婆は、このアンティークドールの逸話を話し始めた。

「この子はねぇ、もう100年も前に作られたアンティークドールなんだよ」
「100年も前に? 100年前の、人形……」
「そう、100年も前さ……」
老婆は懐かしそうに目を細めると、アンを膝の上に乗せた。
「この子を作ったのはあたしの恋人だった人さ……。名前はキャサリン・ヘイ
ズっていってね、今で言うイケてる女だったよ」
「女……?」
「そう、あたしの生まれ持った性癖でね。男は愛せないのさ」
それであたしも女達に……。
「でも、キャサリンは短命だった。元々体の弱かった彼女は、病に冒されなが
らこの子を作った。その無理が祟って彼女はスグに入院したんだよ」
「入院? どうしてそんな無理をしてまで人形作りを?」
「彼女にとって、この子はあたしだったんだよ」
「えっ?」
「だからキャサリンは、いつも病室でこの子を抱いていたのさ」
あたしには、恋人に会えない辛さをこの人形で埋めている、彼女のことが目に
浮かんだ。きっとアンに色々話しかけたに違いない。
「でもキャサリンは、病魔に勝てず死んでしまった。あたしが駆けつけたとき
にはもう……」
「そうだったんですか……」
「白い病室の白いベッドで、彼女はこの子を抱いてまるで眠るように……」
そう言って老婆はアンを見ると、その頭を愛おしそうに撫でた。
キャサリンさんは、死ぬまで愛する人のことを想いながら……。
あたしは何だか目頭が熱くなった。
「キャサリンの葬儀の日、あたしは彼女の棺にこの子を入れようか迷ったんだ
けどね、入れなかったんだよ」
「どうしてですか?」
「今では一緒に入れてあげれば良かった。そう思うけどね。でも当時のあたし
とって、この人形は彼女の形見だったからねぇ」 
「あっ、そうか。だから」
老婆は大きく頷いた。
「だから墓に入れず、自分で持っていたのさ。それでも彼女は怒らないと思っ
てね。でもそれが、良くなかったのかもしれないねぇ」
老婆はまた、下からあたしを見上げた。

Comments 0

Leave a reply

About this site
女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
About me
誠に恐縮ですが、不適切と思われるコメント・トラックバック、または商業サイトは、削除させていただくことがあります。

更新日:日・水・土