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あなたの燃える手で

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アンティークドール

12
クリスマスイブの朝。
今朝も出窓に座って、アンはあたしを見下ろしている。
そんなアンの青い目を、あたしはベッドから見つめ返す。
思い切って起き上がると、出窓のアンの両脇に手を入れて持ち上げた。
そしてその目を覗き込んだ。
「やっぱり、やっぱりアナタが来てからよね、アン」
ガラスで出来ているのか、その青い瞳は宇宙のように深い光を湛えている。
「あたしね、最近イヤラシイ夢ばっかり見るの」
そんなあたしを、アンはなんとなく焦点の定まらない瞳で見つめていた。

こんなコト言ってる自分がおかしいとも思う。
でも、そう思わずにはいられないほどの、劇的な変化ではないか。
アンを買ってから、あの日から突然あの夢は始まった。
このアンティークドールに、何かあると思いたくもなる。
やっぱりあの骨董屋に返そうか……。

その日の午後。
あたしはアンを大きな紙袋に入れて、あの骨董屋へと向かった。

バス通りに面した、細い路地の先にあの店が見える。
店名の『ZOLA』という文字は、やっぱりココからでは読めない。
店に近づくほどに小さかった看板の文字が、徐々に読めるようになってくる。
"なんとなく可愛げで得体の知れない店"、それがあたしの持ったこの店の第一
印象だった。それは今も変わらない。
いや、むしろアンを買ってからの日々を思えば、"得体の知れない妖しい店" か
もしれない。
ZOLAと書かれた看板の下に立って、あたしは店の中を覗き込んだ。
店内には相変わらず、雑然と大小の骨董品が並んでいる。
溢れかえる骨董品の中に、チョットしたスペースが空いている。
アンの座っていた場所だ。
あたしがアンを買う前、このアンティークドールはあそこに座っていたのだ。
まるでアンが帰ってきたらまたここに置くと言わんばかりに、その場所が空け
られている。
「いらっしゃい、お嬢ちゃん……」
突然聞こえた声に、あたしはギョッとした。
いつからソコにいたのか、あの司祭服みたいな服を着た老婆が、膝の上に黒猫
を抱いて目の前に座っていた。
「そろそろ来る頃だと思ったよ」
老婆は袋に入ったアンをチラリと見ると、しわがれた声で言った。
「えっ? あ、あのう実は……」
あたしはアンを買ってからの、事の経緯を老婆に話した。
もちろん夢の内容は黙って、ただ悪い夢として話したのは言うまでもない。

「というワケで、この人形お返ししたいんですケド……」
「そうかい、やっぱりねぇ~」
「やっぱり……? やっぱりって……」
そう言った老婆に、あたしは驚いた。
「それって、まさか本当にこの人形が……」
「だから言ったろう、この子は悪戯好きだって」

老婆の光る目が、あたしを下から見上げていた。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土