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あなたの燃える手で

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こちら夢の森探偵社

19
北島奈美は足早にクイーンホリデーに入ると、エレベーターに乗った。
彼女の乗ったエレベーターの扉が閉まると、リンダはその前に立った。
点滅しながら上がっていく階数表示は、10階を越えていく。
「やっぱりMELLOW BLUE か……。そうだと思った」
点滅が18階で止まるのを確認すると、自分も隣のエレベーターに乗った。

リンダが18階で降りたとき、奈美の姿は既になかった。
しかしリンダは迷わずMELLOW BLUEの前まで歩き、 深海のような青いガラ
スのドアを押した。
奈美はカウンターのほぼ中央に座り、渋いサックスとハスキーな女性ボーカル
の歌声に包まれている。
リンダは敢えてテーブル席に座り、奈美の背中を見つめた。

今日のリンダはキャンパスにいたときのまま、黒髪のセミロングのカツラに白
いシャツを着ている。
もし北島奈美に見られても、大学内で彼女の視界に入ったことはほとんどな
い。このままでもおそらくは気付かれないだろう。
奈美が携帯を持って下を向いている。メールだろうか?
若村エリ? それともこの間の髪の長いSっぽい女か。
もしエリだったら……。
彼女とは事務所で1回会ったが、彼女に変装している今の自分を見破れるとは
思えない。なにしろ、あの時は赤い頭にヘビメタのTシャツだったのだ。
リンダは携帯を取りだし、メールをするフリをして少し俯いた。

バーテンダーのLが、奈美の前にジントニックを置くと、そのままリンダの前
にオーダーを取りに来た。
「いらっしゃいませ。何にいたしましょうか?」
「えっ、あっ、ハイボール……」
「ハイボール、お好きなんですね」
「えっ?」
「この間もハイボールでしたから。お好きなのかと……」
Lの微笑みに、リンダは微笑みで応えた。
「あたし完全にバレてるじゃん。この間は赤い頭で来たのに……」
リンダがハイボールに口を付けたとき、あの女が店に入ってきた。
「あっ、Sっぽい女だ」
彼女はスグに奈美を見つけると、カウンターへと歩み寄った。
リンダは顔を携帯に戻し、上目遣いに2人を見た。

「こんばんは、奈美さん。嬉しいわ、こんなに早く会えるなんて」
彼女は微笑みながら奈美の隣に座った。
リンダの耳は2人の会話に集中した。
「あたしもよ。紙を受け取ったときはビックリしたけど」
「あれを書いたときは、あたしも会えるなんて、夢にも……」
「いらっしゃいませ。何にいたしましょうか?」
Lが金髪を揺らして2人の前に立った。
「あたしもこの人と同じモノを……」
「あたしだってダメ元で電話したのよ。こんな番号ジョークかもしれないと思
いながら。でもどうしてあたしに?」
「一目惚れ。あなたを見た時ピンときたの。アノ人あたしと同じだって」
「そう、でも今はあたしにも判るわ。楓さんはあたしと同じだって……」
「ジントニックです」
楓の前にジントニックが差し出された。
「嬉しいわ、奈美さん……」
2人が乾杯をする ”カチン” という音が聞こえた。
いつの間にか2人の手は、カウンターの下で指を絡め合っている。
「すみません……。部屋、取れます?」
そんな奈美の問い掛けに、Lはルームキーを片手に応えた。
「はい、10階のお部屋を1室だけなら……」
「それじゃその部屋……、お願いします」
「判りました」
それを聞くとリンダは、ハイボールを飲み干して先に店を出た。
窓の外は既に真っ暗になっていた。

リンダは10階に降りると、2人が来るのを待った。
「北島奈美と楓か……。あの2人、やっぱり……」
やがて2人は10階に現れ、通路を中程まで歩くと立ち止まった。
エレベーターの陰に隠れている、リンダに気付いた気配は無い。
ルームキーを差したドアが開き、2人は室内へと姿を消した。
リンダは小さなデジカメで、入室の瞬間を撮った。

静寂を取り戻した10階の通路に、どこかの有名な香水がほのかに漂った。

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土