2ntブログ

あなたの燃える手で

Welcome to my blog

白百合忍法帳

11
(慶安四年 七月十五日)

「おや?……女の匂いだ。もしや今の男」
柘榴は、たった今すれ違った総髪の男の後を追った。前回、朧火の後を付け、してやられた柘榴だったが、今回はぬかりなくその後を付けた。
「しかし……、あの体付きは……どう見ても男だねぇ……?」
その大きな体で男は通りの真ん中をのし歩いていく。この江戸でもこれほどの大男は滅多に見かけない。
お陰で柘榴はその大きな姿を見失う心配もなく、男との距離を開けて後を付けることが出来た。
町に夕闇が迫る頃、男は ”入り込め湯”(男女混浴の銭湯)に入っていった。
「銭湯かい? 良いご身分だねぇ。でもこれで正体を確かめられるねぇ」
藍染めの暖簾に、『桜湯』の二文字が読めた。
柘榴は帰り道を良いことに、男に続きその暖簾をくぐった。


もうもうとした湯気の中、数名の男女が湯に浸かっている。
柘榴は油断無く目を配った。湯船の隅では、近所のご隠居が世間話に花を咲かせ、絶えず湯の流れる音と、桶の鳴る音が響いていた。
その白い湯気の中に、一際大きな男の黒い影があった。
柘榴は湯船に足を入れると男の隣に歩み寄り、そこに体を沈めた。
熱い湯が柘榴の体を包み込む。柘榴は溜息をつきながら、それとなく男の体を観察した。確かに体付きやその筋肉は男のそれだった。
(あたしの勘違いかねぇ~……?)
柘榴が落胆しかけたとき、男の手が湯の中で柘榴に伸びた。その手は太股に触れ、やがて湯の中で揺れる恥毛に触れてきた。
(やっぱり男だねぇ、ふふふっ)
柘榴は男の顔を見て微笑んだ。男も柘榴に顔を向けた。
「いやっ、すまん。ほんの冗談だ、許せ……」
男はそれ以上のコトをすることはなかった。いや、この熱い湯が我慢ならなかったのか、男は湯から腰を上げた。
その時、無意識に男が総髪の髪に手をやった。
「……?」
総髪の髪を気にして頭に手をやった仕草、その仕草に柘榴は女の仕草を見た。
(今の仕草は……女? でもさっきの声は男だった)
湯から上がった男は振り返りもせずに脱衣場に行くと、着物に袖を通しそのまま桜湯を出た。

男は濡れたままの総髪で町を抜け、うら寂しい道を通り小高い山に続く坂道を登っていった。やがて道の両脇には墓地が並び、その道の先に廃寺となった海竜院が見え始めた。
「こんな道を一人で、やっぱり怪しいねぇ……あの男」
そこで男は本堂に入り身を隠すと、女となって本堂から出てきた。
その姿は身長も低くなり、着物も女の物に変わっている。胸は豊かに膨らみ、髪は簡単に結った髷にされていた。
しかし湯上がりの濡れた髪が決め手だった。
(やっぱり女だったねぇ。でもあの体があんなに小さくなるなんて……)
柘榴はまたも裏を掻かれた気になった。
「海竜院」を過ぎ、まっすぐ行くと江戸薩摩屋敷に行き着く。この女が連判状を持っていると踏んだ柘榴は、この間の失敗を取り返すべく女に声を掛けた。
「お待ちっ!」
女は振り向きもせず、その場に立ち止まった。

遠く夕焼けの向こうで、ヒグラシの声が小さく聞こえた。

Comments 0

Leave a reply

About this site
女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
About me
誠に恐縮ですが、不適切と思われるコメント・トラックバック、または商業サイトは、削除させていただくことがあります。

更新日:日・水・土