2ntブログ

あなたの燃える手で

Welcome to my blog

白百合忍法帳


(慶安四年 七月四日)

その日、仕事を早仕舞いした柘榴が日本橋に着いたのは、江戸の空が鬼灯色に染まったころだった。
橋の袂を少し横によけた所にその占いはあった。既に数十人の殺気だった浪人達が列を作っている。その行列を横目に、多くの町人達が長い影を引いて往来を行き来している。
「はっはぁ~ん! アレだねぇ、占いっていうのは!」
柘榴は橋を渡り、反対側の欄干に寄りかかると、何気なく占いを観察した。
占いをしているのは女で、桃色の着物を着て浪人と向き合っている。
女はちょうど柘榴に背を向ける格好で座っていた。
しかし川を挟んだこの距離では、彼女の声を聞き取ることは出来なかった。
占いの終わった浪人達は、誰もが虚ろな目をしてその場を立ち去っていく。
彼らは虚ろな目のまま歩き、口々に幕府を罵り悪態をついている。
「うぅーん、妖しいねぇ!」
日はいよいよ傾き、辺りが薄暗くなってきた頃、占いの女は最後の浪人の占いを終えると立ち上がった。
そそくさと荷物を風呂敷にまとめると、ソレを片手に川沿いを歩き出した。
女は桃色の着物の裾を翻し、人々の間をすり抜けるように足早に歩いていく。
「どれっ! ひとつ後を付けてみようか……」
柘榴はともすれば人ごみに消えてしまいそうな女の後を付け始めた。
女は日本橋を渡り南へと下っていく。そのまま半時近くも歩いたろうか。
辺りはとっぷりと暗くなり、空には十六夜の月が雲間に見え隠れしている。
間近に芝の町並みが見える。女は大きな武家屋敷の角を曲がった。
柘榴がその角を曲がると、女の姿はプッツリと消えていた。
「んん? いない……。やるねぇあの女。やっぱりくノ一だねぇ!しかしあたしのコトは……気付かれていないと思うけどねぇ!」
柘榴は仕方なく踵を返すと、足早に立ち去った。

翌日の夕方、柘榴は日本橋からもう一度あの女の後を付けた。
昨日と同じ桃色の着物に、手には風呂敷を提げている。おんなは同じ道を通り、月が同じ高さに昇った頃、昨夜見失った武家屋敷に近付いた。
柘榴は女が武家屋敷の角を曲がる直前に、何かを投げつけた。それは針の付いた髪の毛よりも細い糸だった。長さは十数間分もあり、糸の端は柘榴の手の中にある。これで女が姿を消しても、その行方は知れることになる。
女が角を曲がり姿を消した。
糸は武家屋敷の壁を越え、屋敷の裏に続いている。
柘榴は糸の示す道を音もなく歩いた。糸は武家屋敷を抜け、いつしか竹藪の中の獣道を通り、うら寂しい寺の境内に出た。
「おやっ? ここは鬼哭寺だね。なんだってこんな所に……」
境内には白い霧が立ちこめている。
雲が切れ、月明かりが暗い境内を照らした。
その霧の中から桃色の着物が微かに見え始めた。それは近付くほどに影と共に形をなし、やがてあの占い師の姿となって柘榴の前に立った。
「おまえさん、薩摩のくノ一だね!」
「そう言うおまえも、江戸のくノ一であろう?」
若い女の可愛い声が、柘榴の耳をかすめていく。
「あたしは柘榴。お前に聞きたいことがあるのさ!」
「それは連判状のことかえ?」
「話が早いじゃないか! その連判状、渡してもらえば命までは取らないよ」
「ふふふっ、連判状を渡す? それはその方であろう」

女が一歩足を踏み出した。桃色の着物が割れ、白い太腿が付け根まで現れた。

Comments 4

-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2008/09/07 (Sun) 12:19 | EDIT | REPLY |   
蛍月  
☆さん、お久しぶりです

早速、訂正しておきました。
ありがとうございました。

それから、お題は『テーマ』という意味ですので、
これで良いと思うのですが・・・???

2008/09/07 (Sun) 17:47 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2008/09/08 (Mon) 16:09 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2008/09/14 (Sun) 17:41 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply

About this site
女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
About me
誠に恐縮ですが、不適切と思われるコメント・トラックバック、または商業サイトは、削除させていただくことがあります。

更新日:日・水・土