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あなたの燃える手で

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春を画く

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アトリエのバルコニーへの細工が終わりました。

後は電話で先生をバルコニーに誘導し、体当たりで壊した手すり、やっと形
を保っている程度のその手すりに先生が寄りかかれば……。
それがあたし達の計画です。

「本当に大丈夫かしら……?」
双葉はやっぱり心配のようです。
「大丈夫よ。あたし達に殺されるなんて思っていないから、ダイイングメッ
セージを残されるコトもないし、本当に手すりが折れて落ちたんだもん、誰
よりも当の本人が事故と思ってるわよ」
「そうね、そうよね……」
そして数日後、先生は一人でアトリエに向かったのです。

翌日の昼近く。あたしのマンションのベッドには、まだ双葉が寝ています。
あたしはスマホを手に取ると、先生の名前をタップしました。
5~6回のコールの後、先生の声が聞こえたのです。
「先生、おはようございます」
「おはよう。なんだいこんな朝から、何か用かい?」
「先生? 朝から大変申し訳ないんですが、実はあたし、バルコニーの手摺
にサボテンの鉢を置き忘れてきてしまいまして……」
「サボテンの鉢? あぁ、あの小さいのかい?」
「はい……」
「なにやってるんだい? 今見てあげるから、ちょっとお待ち……」
先生はバルコニーの見えない部屋にいたのでしょう。なにやら室内を移動す
る気配がします。
「すみません、本当に……」
「バルコニーの手摺りの上……、だね」
「はい」
「うぅ~ん、ここからはなにも見えないけどねぇ」
「もしかしたら、下に落ちてないでしょうか……」
「下に……」
「ちょっと見ていただけませんでしょうか」
「いいけど、でも下に落ちてても、拾えないよ」
「はい。でも一応…・、在るか無いかだけでも……、いいですか」
「しょうがないねぇ、ちょっとお待ち、今見てくるから」
「本当に申し訳ありません」
 すぐにレースのカーテンを開ける音、そしてサッシを開ける音が聞こえ、続
いてバルコニーをサンダルで歩く音が聞こえてきました。
「うぅ~ん、ないねぇ」
「真下に、落ちてないでしょうか……」
「見えないよぉ。草が生え放題だから、葉っぱが邪魔して……、んん?」
「ありましたぁ?」
「うん、なんかサボテンぽいのが在るねぇ」
「えぇ、ホントですかぁ、大事にしてたのにぃ……。あのぅ、それ、ホント
にサボテンですよね」
「そうだと思うけどねぇ……」
「そうですか、わかりました……。やっぱり落ちてたんですね。ありがとう
ございました。それがあのサボテンでも、そうじゃなくても、どっちでもい
いです。どうせ拾えませんし……」
「いいのかい?」
「はい。ありがとうございました。失礼します」
すると、スマホを耳から離す直前.。
「あぁっ、あぁぁー」
 "バキッ" という木の裂ける音と、先生の悲鳴が聞こえたのです。

あたしはそのまま、通話を切りました。


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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土