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あなたの燃える手で

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狩人はバニラの香り

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折からの台風は関東地方に接近し、この街は嵐の前に静けさに包まれていた。
明日香は台風の風が緩やかに吹き始めた頃、雨雲に包まれた『夢の森駅』で下車をした。そのまま西口に向かい、『アマデウス』のドアを開いた。
「いらっしゃいませ。あら、明日香ちゃん」
ママが入口脇のレジから声を掛けた。
「あっ、どうも、こんにちは。また来ちゃいました」
「いらっしゃい。この前あんなことになっちゃったから、もう来てくれないんじゃないかって思ってたのよ」
「そんなこと、一昨日も来たんですよ」
「ええ、響子ちゃんから聞いたわ。で、何にする? コーヒー?」
「はいっ、それと……」
「ケーキでしょ。何がいい?」
「それじゃ、チーズケーキで。それとぉ……響子ちゃんは……?」
「あら、あたしより響子ちゃんの方がいいのぉ?」
ママの口元に妖艶な笑みが浮かんだ。
「えっ? いえ、そんなんじゃなくて……います?」
「ええ、いるわよ。待ってて、後で行かせるから」
「ああっ、はいっ」
明日香はレジ前から、いつもの観葉植物の陰のテーブルに向かった。
台風が来るからか店内に客はいなかった。窓の外は台風の雲に覆われ、かなり暗くなっている。風もさっきよりも強まっているようだった。
明日香はいつも座る壁側の椅子に座った。まるでここが自分の席であるかのように落ち着いた。席に座ると響子がすぐに水を持ってきた。
「いらっしゃいませ~明日香様ぁ~」
「もうっ、響子ったらぁ~」
「ねぇ、明日香。台風来そうだよ。大丈夫? 電車止まるかもよ」
「えっ、まさかぁ」
「だって去年も止まったもん。本当だよ」
「まっ、そん時はそん時だよ」
「本当に、知らないよぉ~明日香」
「大丈夫だってばぁ~」
明日香に背を向け、響子が立ち去ったときだった。いきなり強い雨が『アマデウス』のガラスを叩いた。無数の銀の滴が尾を引いて流れ落ちていく。
表は急速に暗くなり、道行く人が傘を前に傾けて歩いている。
「とうとうこの街に台風がやって来た。よかった傘持ってて」
明日香はのんびりと降りしきる雨を見ていた。電車で1駅という安心感がそうさせたのかもしれない。
無数の銀の針は勢いを増し、斜めになってこの街の全てに襲いかかっていた。
暫くして響子がコーヒーとケーキを持ってきた。
「凄い雨だよ。もう排水溝が溢れてる。ウチも閉めた方がいいかも」
「そうだね。その方がいいかもよ」
「あっ、明日香はゆっくりしていっていいからね」
「うん。ありがとう。雨の日にまったりするのも悪くないね」
「って言うか、台風だけどね」
そう言うと響子は厨房に消えていった。

Comments 2

マロ  

外は台風ですが、
アマデウスは嵐の前の静けさですね。(笑)
これから明日香の身に起こる事を考えると・・・ドキドキです!

2007/10/13 (Sat) 12:16 | EDIT | REPLY |   
蛍月  

いよいよ台風がやって来ました (笑)
実は、この台風が色々とやってくれます。
ママと響子はそれに便乗して・・・。
(*^_^*)

何となく予想は付くかもしれませんね。
でも台風の悪戯は、1つだけじゃありません。
お楽しみに。

2007/10/13 (Sat) 19:59 | EDIT | REPLY |   

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女が女をじっくりと、生殺しのまま犯していく。その責めに喘ぎ仰け反る体。それは終わり無き苦痛と快楽の序曲。     
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更新日:日・水・土